喪服と薔薇-2
普段のシフはアルベルトと結婚してからも、戦士時代からの習慣もあり自ら馬に乗ることを好む。
城主夫人の立場としては品位にかけるともいえるのだが、長い付き合いでシフのことを理解しているアルベルトは多目に見てくれていた。
だが今日のシフについては、その服装が裾の長い薄手の黒い喪服ということもあって、普段乗らない城主夫人用の4輪馬車でここまで来ていたのだった。
辺りを見回しうろうろしながらも、並みいる馬車の中からようやく目指す本命の馬車を見つけ出すことができた。心得たもので御者の方も既に出発できる態勢を整えていた。
シフはゆっくりと近づいて御者に合図し馬車の扉に手をかける。
まさにその時、彼女の背中に声がかかった。
「私もご一緒してよいか?」
「!!!」
聞き覚えのある男の声に、シフは素早く反応し振り向く。彼女の視線の先に立っていたのは、
「・・・ナイトハルトかい」
「・・・・やれやれ、言葉遣いは相変わらずだな」
現ローザリア国王
ナイトハルト。
漆黒の鎧とその覇気から“黒い悪魔"とも呼ばれ、シフやアルベルトとも少なからずの因縁を持つ金髪の男。
邪神サルーイン戦後に正式に国王に即位。
アルベルトによるイスマス復興を認めた後は、シフにとっても一応“主君"ということになる。
だが昔アルベルトや他の仲間と共に冒険し、その中で何度か関わりを持ったシフにとってみれば、
今にいたるまで公式はともかく、内心はナイトハルトを“崇め奉る対象”として見ることができなかったのが現実であった。
「・・・ここの城主は昔からの知り合いだったのでね、身分を隠して参列させてもらったのさ。もっとも目立ちたくなかったので、最後列にいたんだがな」
「・・・そうかい、私は気づかなかったよ」
「私の方ではすぐ分かったよ。それだけ背が高ければおのずとな。
・・・ところで、この後はちょうどイスマスに行きたかったのだ。
奇遇ではあるが、一緒に乗せていってもらえるか?
こちらはお忍びなので、伴はつれていないがね」
「誰があんたなんか・・・」
「しかしイスマスに行くのは本当に久しぶりだ・・・
そう言えば、ディアナとアルベルトの休暇ももうすぐ終わる。そろそろアルベルトもイスマスに帰ってくる頃じゃないのか?」
などと言いながら、
ナイトハルトはシフの脇をすり抜けて馬車の扉を開けると、シフの反応に構わずそのまま中に入った。
一瞬の出来事でシフもあっけにとられたが、今さら叩き出すわけにもいかず、仕方無しにナイトハルトの後に続いた。
(・・・アルの名前に一瞬動揺するなんて。私もまだまだ甘いねぇ・・・)
と、苦笑しつつ。
―――ピシッ・・・
―――ブルルッッ
やがて扉は閉まり、馬に鞭が当てられ、2頭だての馬車はゆっくりと動き出す。
太陽はちょうど西に沈みかけているところだった。