止まらない想い-1
高科君のアパートは、大学のある駅を越して三つ目の駅のすぐ近くにあった。
今まで一度も男の人と付き合った経験のない私は、男の人の部屋に入るのも初めてで、心の中の緊張を悟られまいと、常に笑っている事で誤魔化している状態だった。
部屋のドアが開けられ、小さな玄関に通されたら、すぐに部屋の中が見える状態で。
「…散らかってるけど、ごめんな」
私を見て苦笑いする高科君に、
「本当に散らかってるぅ…」
私は、少し拗ねた顔を向けて、フローリングに散らばった紙や本や服を拾って片付けた。
「いつも悪いな…、片付けて貰って」
高科君の言葉で、普段は万優子がこうして部屋を片付けている事を知り、羨ましさで憎々しい気持ちになった。
ある程度片付けが終わると、高科君は私の後ろから抱きついてきて。
「万優子…」
「――っ!」
名前を呼んで、私のうなじに唇を這わせた。
たったそれだけの行為なのに、私の心臓は早鐘のように鳴り、自分でも驚くほど全身が熱を発して。
「どうした…?」
「えっ…」
「今日はなんか、スゲー強張ってないか?」
なにかを察したのか、高科君は私を見て心配そうに小さく笑んだ。
「…わ、私だって…、たまには緊張くらいするよぉ…。だって…さっき仲直りしたばかりだし」
「…なぁ…、本当にあのバイトの奴とは…」
「もしなにかあったらどうする?」
「…なにもないから、オレに堂々と話してくれたんだろ?」
「…秀明は、本当に私の事をよく見てくれて、信頼してくれてるんだね?」
高科君を見つめたら、悔しくて悲しくて涙が溢れた。だけど、そんな私の気持ちなんて知るよしもないだろう。高科君は、私が嬉しくて泣いてるんだと思ったらしく、
「当たり前だろ? 大事な大事な彼女なんだから」
そう言って、私の唇をそっと唇でふさいだ。
労るような優しいキスから、舌を絡め、口内をまさぐるような激しいキスに、私の足は立っている事が苦痛になるくらい力が抜けて、少し、また少しと後ずさるように私の体はベッドへと向かっていく。
「んっ…はぁ……」
「……んっ……」
お互いの息が触れあい、くぐもった吐息が重なる微かな音が部屋に静かに響いてる。
脳が甘く痺れ、時折通りを走る車の音さえも、酷く遠くに聞こえた。
ゆっくりとベッドに腰を下ろすようにリードされ、やがては横にされて。
「っぁ……っ…」
首筋をなぞる高科君の唇に、甘い痺れを感じて思わず吐息混じりの声が洩れる。
これから初めてのセックスを高科君とするんだ…。
怖さよりも、体が高科君を欲して熱をあげて疼くほうが勝っていて。
はしたなくも、私の下肢の下着は滑りが溢れていた。
一度も男を受け入れた事のない体だけど、高科君と万優子のセックスの喘ぎを聞いてから、毎晩のように私は自分で自分を慰めてた。
高科君の粗い息遣いや声の記憶を手繰り寄せながら、ずっとずっと、高科君にこうされてみたい。
そう思いながら、火照り疼くメスの性を自分で解消してた。
カーディガンの袖が肩からするりと抜けて、オフショルのワンピースだけになった私の鎖骨に舌を這わせ、ワンピースの上から大きな手でゆっくりと私の胸を揉み上げ、高科君は甘い吐息を溢す。
そんな高科君の吐息を感じるだけで、胸がきゅうと切なく軋み、酷く体が疼いてしまい、泣きたくなってしまう…。
「…なんか、今日の万優子、いつも以上に可愛いな」
「ぁあ…っん…」
いつも以上に可愛い…。
それは、私にとって、これ以上ないほどに至福の言葉だった。