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泥棒シンデレラ
【女性向け 官能小説】

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私は万優子-1


 翌日、私はいつも通りの時間に家を出た。
今日の講義はいつもより遅い昼少し前だけれど、学校へ行く前に整えたい準備があったからだ。

 登校前万優子が私に見せた、神にすがるかのような表情を思い出すと、堪えきれず笑いが込み上げた。

「バカな女。疑う気持ちがまるでないなんて…」

 全くもって見下されたものだ。
私だから大丈夫? 相手が私なら高科君と間違いは万にひとつも起こらない? 

 はいはい、信頼してくれてどうもありがとう。

「ムカつく女…。私の辛さなんてなにも知らずに幸せに笑ってるアンタが悪いのよ」

 わかってる。全て私の勝手な逆恨み。
万優子にはなにひとつ悪気も悪意もない事は私が一番よくわかってる。
それが更に私を苛立たせた。
だって、人間なんて元々、裏も表もある生き物でしょ?
なのに、万優子には裏も陰もない。
素直でいい子過ぎて気持ち悪いくらい。

 私とは大違い。きっと、私達は白と黒、善と悪とに分かれて生まれてきたんじゃないかと思いたくなるくらい…。



 数分歩いて駅に着き、電車に乗り大学の手前の駅で途中下車して、朝イチでネット予約を入れた美容室のドアをくぐった。
 十年近く変えた事のない黒いロングヘアー。それも今日でお別れ。
今日の大事な計画の為だと思えば未練なんてない。

 私は、担当スタッフに万優子と同じ髪形のカタログを見せて希望して、生まれて初めて明るいカラーを入れた。

 仕上がったヘアスタイルを鏡で見て、若干身震いしたくなるような気持ち悪さを感じつつも、

(万優子だわ…)

 なんだか笑いが込み上げそうになった。


 美容室から出て再度駅に向かい、トイレに入り大きめのトートバッグに詰めてきた万優子の服と靴に着替えてメイクをしたら、鏡の中に舞子はいなくて、万優子がいた。

 膝上丈のパステルグリーンの花柄のワンピース。
 アイボリーのニットのカーディガン。
 ローヒールのクラシカルなパンプス。

「秀明っ」

 高科君の名前を呼んで、明るく笑ってみたら、凄く苛々するくらい、万優子だなって思えた。
姉妹である自分がそう思うくらいだ。きっと他人ならば私は万優子にしか見えないだろう。

「私は万優子よ…」

 今日だけ限定の万優子。それでも構わない。

「まるでシンデレラみたい」

 地味で日陰な舞子は、明るい陽射しに愛される万優子になるの。

「今日だけは、いっぱいいっぱい秀明に愛されるの」

 見た目が万優子になると、心まで万優子になったかのように私の表情は明るくて、自分で思うのもおかしいけど、とても愛らしいなと笑みを浮かべてしまいたくなる。

 駅を歩いていると、色々な人が私を見てる事に気付く。なんだかとてもいい気分だ。
そのうち、私に知らない男の人が近付いてきて、

「ねえ、ひとり?」
 なんて声をかけられてしまった。
…困ったなぁ。ナンパなんてされたのは初めてで…。
 そうしたら、

「オレの女に、なんか用?」

(た、高科君!)

 高科君は後ろから私の肩を抱いて、ナンパをしてきた男にやんわりと笑みを浮かべて追い払ってくれた。

「あ…、あの…」

 どうしよう。あまりに突然過ぎて、万優子みたいに上手く話せない。
そんな私に、

「全く…、本当にお前は危なっかしい…」
 拗ねた顔を向けて、

「万優子、…昨日はその…、ごめんな…」
 そう言うと、照れ臭そうにはにかんで私をめいっぱい抱き締めてくれた。

(信じられない! 私、高科君に抱き締められてる)

 ずっとずっと恋い焦がれていた高科君のぬくもりに包まれたら、涙が溢れた。

「秀明…、私こそごめんね…。秀明の気持ちも考えずに…」
「いいんだよ、お前は全然悪くない。オレがガキみたいに嫉妬して怒ったのが間違いだった」

 高科君は私を見つめてそう言って小さく笑うと、私の涙を拭って、ゆっくりと顔を近付けてきた。

(嘘でしょ…?)

 人通りの多い駅の中、思いがけず私は高科君に優しくキスをされた。
唇に初めて感じた柔らかくて温かい感触。

 生まれて初めてのキス。それが大好きな高科君とだなんて…。
幸せ過ぎて、軽い目眩がした。だけど、

「万優子、オレはずっと万優子が好きだから」

 高科君の言葉を聞いて、我に返る。

 そうだ。私は舞子じゃない。万優子なんだ…。
心の中に冷たい風が吹いたように、体から熱が抜けていく感覚に陥った。だけど、

「私だって…、秀明が大好きだよっ」

 高科君に明るく愛らしい笑顔を見せて、

「ねえっ、折角仲直り出来たんだもん。今日は学校行くのやめて、二人でどこかに行きたいな…」

 私は高科君にそう提案した。

「…そうだな、うん。万優子、どこに行きたい?」
「…二人きりになれる場所がいいなぁ…」

 甘えた声で視線を向けたら、

「…じゃあ、オレの部屋でもいい…?」

 私の耳元でそう甘く囁かれ、私は胸の高鳴りを抑えて小さく笑って頷いた。



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