spring〜出会いと別れ〜-1
春。それは親しき人たちと別れ、そして新たな仲間と出会う季節。
草花は待ちわびた様に顔を出し、動物たちもまた活発に動き出す。
そんな、悲しくも素晴らしい季節を目前に、俺はフラれた。
理由はわからない。5つも年上の千佳(ちか)は、「あなたが好きだから…だから…」と言って泣くばかりであった。
俺は訳も分からず、ただ、千佳の涙をそれ以上見たくないが故に承諾した。
あれから一ヶ月。巷では入学式があちこちで行われた。
俺の高校も例外ではない。一年しかこの高校で同じ時を過ごせない後輩達が、新たに受け入れられた。
そう、俺は高校3年になったのだった。
焦りなんてなかった。無性に悲しかったからだろう。
俺は心に何の区切りもつけられず、形だけの節目を迎えたに過ぎなかった。
「続いて着任式を行います」
俺の気持ちを置き去りに、教頭はプログラムを進める。
「今年は1名。担当は英語です。それでは七瀬千佳さん、挨拶を…」
「え?」
俺は耳を疑った。
──な…七瀬…千佳……?
そして、目を疑った。
壇上には間違いなく、俺の彼女だった千佳が立っていた。
「え〜、初めまして。七瀬千佳といいます……」
式は無事に終わり、ホームルームの後解散になった。
俺は放心状態で一人教室にいた。
「なんで千佳がこの学校に…」
俺の目には何も映っていなかった。
「なんで千佳は俺を…」
そんなことが頭をくるくる回る。
春の太陽はまだ日が高く、教室に差し込む光は綺麗に輝いていた。
「最近のセンターの傾向には、物語・エッセイ・ビジュアルに加え………」
スーツを身に纏った千佳に、昔の面影は全くないように見えた。
淡々と授業を進める千佳は、まるで俺とは何もなかったかのようだ。
俺はノートもとらずに千佳を見つめていた。
そんなある日、心のわだかまりを打ち砕くヒントは不意に舞い込んで来た。
それはあるドラマのワンシーンだった。
『別れよう』
『どうして?』
『君が好きだからだ』
「ん?」
俺は身を起こし、テレビに向き直る。
『生徒の君が教師である俺と付き合っていると、君や君のご両親に迷惑がかかる。それだけじゃない。無理やり仲を引き裂かれたり、退学になったりして君を傷つけてしまう』
『そんなの関係ないわ!私は先生が好きなの!一緒にいれたら………』
「そうか!」
俺は居ても立ってもいられず、春の夕闇に飛び出した。
千佳の住むアパートに、全力疾走で駆け抜けた。
そして月明りが光る頃、やっとの思いで千佳の住むアパートについた。
「ドアの向こうに千佳が…」
息をきらしながらインターホンを押す。
「千佳!俺だ!」
俺は叫んだ。早く想いを伝えたくて。
そっとドアが開かれ、千佳が姿を現す。
「千佳…はぁ…はぁ…」
「ど、どうしたの?!」
そこにいた千佳は、付き合っていた頃の、まさにその時の千佳だった。