月夜のヴィーナス-1
その朝、竜次が窓越しの陽射しで目を覚ますとベッド脇で女がボインを揺らしながらショーツをはくところだった。誰だろう?よく見ると昨夜バーで拾った女だった。
「帰るのか?」
女は答えない。竜次はゆっくりと起き上がりベッドから出ると背後から女に抱きついた。そしてがっちりと両胸を揉んだ。揉み応えのあるボインだ。
「朝から乳首立ってるな」
「やめてよ、急いでんだから」
「今日予定あるのか?ボインちゃん」
「当たり前でしょ?今日は水曜日。会社員は働くのよ。あなたとは違うの」
犬山竜次は36歳。職業は官能作家だ。だから曜日など関係がないのだ。只今スランプ状態。ここ半年新作を発表していない。書けない焦りをたまにバーで飲んでは女を拾い、自分の部屋に連れ込んでいた。
バタン。ドアを勢いよく閉め女は出て行った。
「しまった。連絡先聞いてないじゃん。また抱きたかったがもう無理か」
などと言いつつ竜次はまたベッドに入り寝てしまった。そして今度目覚めたのは12時過ぎだった。初夏の太陽がギラギラと竜次の顔を照らした。竜次はベッドで横になったまま少し窓を開けた。清々しい春風が入ってきた。
携帯が鳴った。助手の権藤だった。
「先生。おはようございます」
「おお、権藤か」
「先生。書けてますか?」
「さっきまで題材がいたんだが、逃げられてしまった」
「その題材はボインでした?」
「ああ、いいボインだった」
「先生はボインには目がないですね」
権藤は笑った。
「権藤、悪いなとは思ってる。新作書いたら給料払うから」
「期待しないで待ってます」
権藤太郎は29歳。犬山の助手をしているが、犬山の新作ができず、給料もストップしている関係でAV男優している。
「実は昨日の相手役の女優が先生のファンらしいんです」
「へぇー」
「何冊か読んでるみたいで、会ってみたいと言うんですが」
「名前は?」
「金子モニカ。先生知ってます?」
「モニカ・・・え?まさかSの?」
「はい。Sです」
「私はSの女優には興味ない。忙しいと言ってくれ。それに権藤、まさかおまえ虐められ役?」
「はい。私も気が進まなかったのですが仕事選べないですよ」
「悪いな。私の責任だ。新作を早く書いてそこから救ってやるから」
そう言って携帯を切ったが、ますます私は新作へのプレッシャーがかかってしまった。
起き上がってお湯を沸かす。ドリップ式のコーヒーを入れる。窓を全開にしてTシャツにジャージのままコーヒーをごくりと飲んだ。苦いなあ。スランプになってからいつもコーヒーは苦かった。金子モニカ。肉体的には申し分ない。だがボンデージ姿で男に鞭打つ姿は気分よくなかった。
竜次の部屋は木造アパートの2階。二間とキッチンがある。隣りの部屋には中年の夫婦が住んでいる。その夫婦と挨拶をしたことはないが、アパートの階段や近所で見かけたことはあった。
竜次がコーヒーを飲んでいると変な声が聞こえてきた。
「あ、あ、あ・・・」
気のせいか?しかしまた
「あ、あ、あ・・・」
確かに聞こえた。色っぽい女の声だ。窓から顔を出し辺りを見回すと、隣りの中年夫婦の部屋の窓が開いていて声はどうやらそこからのようだった。竜次は気になって部屋に入ると隣りの部屋との壁に耳を当てた。