やっぱりアイツはズルい男-1
「あのね、陽……」
「くるみ」
まさに口を開いたその瞬間、陽介の言葉が遮った。
吸ったばかりの煙草の火を消してこちらをゆらりと見やる。
一口か二口だけ吸った煙草は、心を落ち着かせるためだろうか。
次に見た陽介の顔は、明らかにさっきとは雰囲気が変わっていた。
その表情に、さっきまでの沈んだ陽介はいなくて、晴れ渡った空のような笑みがある。
そして、弓なりに曲げられた唇から、
「俺、前に進むから」
と、告げられた。
「え……?」
その言葉の意味を問いかける間もなく、陽介は胡座をかいた膝に手を置いて、照れ隠しのように身体を揺すりながらなおも続ける。
「どうなるかわからないけど、メグにもう一度やり直したいって言うよ。お前に言えなかったことを言えて、勇気もらえたからさ。もう、言いたいこと言わないで好きな女を手放すのはごめんだしな。だったら当たって砕けてでも、伝えてくる」
「陽介……」
「お前にずっと好きだって言えなくて、すげえ後悔ばかりだったからさ、そんな過ちはもう繰り返したくねえんだ」
そのまっすぐな眼差しに、あたしは映っていなかった。
あたしを好きって言ってくれたことは事実。
だけど、それはすでに陽介の中で過去のものに変わっていたのだ。
前に進むって陽介は言っていたけど、彼は恵ちゃんに出会って恋をした時から、前に進んでいたんだね。
「……そっか」
喉の奥まで出かかったあたしの想いは、結局言葉にならなかった。