やっぱりアイツはズルい男-7
◇
「はあっ、はあっ……」
汗ばむ身体。切れる息。生ぬるい夜風。
こんなに一生懸命走ったのは、高校の時以来かな。
気がつけば無我夢中で、そろそろ寝静まろうとする街の中を走っていた。
ラフなルームウェアに、8センチはあるヒールの華奢なデザインのサンダル。
こんなとんちんかんなカッコで泣きながら走るあたしを、すれ違う人はどう思うだろう。
だけど、あたしは走り続けた。
陽介の最後の言葉、
“ありがとな”
それがさっきから頭の中にこびりついて離れない。
ねぇ、陽介。あれは、どういうつもりで言ったの?
今まで都合のいい女でいたこと? 恵ちゃんとやり直したい陽介の背中を押したこと? 身を退いたこと?
考えても考えてもわからないのに、その言葉を聞いた瞬間、涙が勝手に流れ落ちてきたんだ。
だから、あたしは陽介に気付かれないように逃げた。
久しぶりの全力疾走は、やけに堪える。
肺がヒューヒュー鳴って、足の裏がジンジン痺れてくる。
雑念を振り払いたくて無心になろうとするけど、次から次へと陽介と過ごした日々が勝手に浮かんでくる。
初めて出会った日、一緒に食べたラーメン。
夜通しやり続けたゲーム。
スグルと別れたことで、始まった身体の関係。
ホントは心まで欲しかった、快楽を求めるだけのセックス。
色んな陽介の顔が浮かんでは一つ、また一つ、消えていく。
お願いだからあたしの頭の中から出ていってよ……!
苛立ち混じりに舌打ちをし、腕でゴシゴシ目元を擦っていると――。
「ひゃっ……!」
高いヒールのせいか、バランスを崩したあたしは足がもつれ、次の瞬間、あたしはアスファルトに叩きつけられるみたいに、思いっきり転んでしまった。