やっぱりアイツはズルい男-6
だけど、陽介はやっぱり意地悪で。
このまま黙って去ることが出来れば、あたしの中では“他に本命が出来たからセフレをあっさり捨てる女”なんて図式が完成するのに、結局彼はそれをさせてくれなかった。
「くるみ!」
張り上げた声に、玄関先まで来ていたあたしはそのまま身体が硬直する。
部屋から呼び止める陽介は、そこから動かないで、ただジッとあたしの後ろ姿を捉えているのがわかる。
お願いだから、もう放っといて。
そう言いたいのに凍りついたみたいに唇が動かない。
「くるみ……」
「…………」
冷蔵庫のモーター音が、やけに呑気に響いている。
しばらくあたし達はそうやって身じろぎもしないでいたけれど、やがて陽介の息を吸い込む音がその静寂を切り裂いた。
そして彼は、最後にたった一言――。
「……ありがとな」
と、呟いた。