(第三章)-4
ふと、棘のあるひとしずくの蜜液が、襞の中でポツリと滴ったような気がした。その雫の音が
私の子宮のなかで無機質な金属音となって木霊する。
欲情が恍惚とした表情を浮かべ、ひたすら歌を歌い続ける。その歌は欺瞞に充ちた私自身の呻
きとなって膣穴を裂き、子宮を打ち砕こうとしていた。彼のペニスが膣穴に空を描いて旋回す
るごとに、私のからだの中に褪せた欲情が浮揚し、無意識に体内に宙づりにされる。陰部の中
で蜜液が切ない風を孕み、中空の穴が髑髏の窪みのように不気味に照り映える。
やがて凍てついた子宮が燦爛と乱れ咲く冬桜の花弁で充たされる。そして、花びらが空洞のな
かで散乱しながら雪のように溶けていくと、膣洞がからからと渇き切り、肉奥には、ただもど
かしさと切なさだけが残されていた…。
早朝から急な仕事で、ノガミは私をホテルに残したまま部屋を出て行った。
なぜか倦怠ばかりが、澱んだ灰汁のように私のなかに漂う。わずかに弛みを帯びた乳房…その
谷間の深い翳りが笑っている。漆黒の陰毛でおおわれた窪みの奥では、まるで沼底にゆらぐ藻
が切なげに啜り泣いているようだった。
ホテルの窓の外には、黎明に包まれた冬桜がようやく深い眠りから覚めようとし、昼とも夜と
もつかない仄白い光と深い静寂だけが澱んだように漂っていた。
なぜかタツヤに会いたいと思った…。
ずっと私は何かを捨てようとし、何かを喘ぐように求めていた。それが何なのか、自分でもわ
からない。私はタツヤを鞭打ち、溺れることで、何かを得ようとしていた。それはけっして今
のノガミから得ることができないものだった。
ノガミとからだを重ねても、脱け殻のようになった私の空洞の中には、まるで夢の切れはしの
ような欲情の欠片が、かろうじて私自身を彼との性愛へつなぎとめていた。空洞のなかで、蜜
汁から変幻したものが、羽を広げ、囀り、淫猥な烈しい疼きを求め、もがき続ける欲情だけが、
気だるい薄笑いを浮かべていた。
私は、ゆっくりと瞳を閉じた…。
思い浮かべたタツヤの体から粘りつくような体温がつたわってくる…。
あのとき私は、幾筋もの鞭の薄赤い条痕を浮かべたタツヤを、吊るされた鎖から床に引き下ろ
した。彼は、革枷でくくられた両手首を頭の上でだらりとしならせ、まるで私に捧げられた
生贄のようにがっくりと床に身を崩した。
そのとき私のからだに生まれた欲情の震えが戯れるように背筋を襲い、肉襞の中の息づかいが
透明な寂光となって散乱し始めたのだ。
薄く瞳を開いたタツヤが、肌に残る鞭の快感の余韻に浸りながら、恍惚とした表情で形のいい
鼻翼を微かに震わせていた。彼の艶やかに冴えわたる肉体…そして彼のペニスは喘ぐように
漲り、濡れそぼった肉幹からはぬらぬらとした光沢が放たれていた。