全裸、ダメ、絶対-2
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そして……。
『恋人らしい』外出を終えて、家に帰ったラクシュは、非常にご満悦だった。
帰る道筋で、アーウェンはいつものキラキラが薄れるくらい悲しそうだったから、失敗かと思ったが、今はとても喜んでくれている。
ラクシュの髪につけた飾りも気に入ったらしく、ぎゅうぎゅう抱きしめる彼の周囲には、あのキラキラがすごく増えていて、直視できないほどだ。
「ん」
玄関で抱きしめられたまま、ラクシュは深く頷く。とてもいい仕事を終えた気分だ。
キラキラがまぶしくて視線を下に向けると、アーウェンから狼の尻尾が出ていて、歓喜を示しブンブンと振れていた。
「あ」
ゴクリ、と喉がなる。
ラクシュはこの尻尾がすごく好きだ。触るとすごく気持ちいいし、正直だから。
吸血鬼にも、この素直な尻尾があれば、本当はラクシュを好きじゃなかったと、もっと早くわかったのに。
しかし、アーウェンは尻尾を撫でられるのも、あまり好きではないらしく、ラクシュが撫でると困った顔をしてすぐ引っ込めるから、もう何年も触っていない。
できれば、あのモフモフ尻尾を抱きしめてほお擦りしたいが、嫌がるだろうなぁ……。
残念だと、じっと尻尾を見つめていたら、不意にアーウェンが耳元で囁いた。
「俺の尻尾、触りたいですか?」
「…………ん」
一瞬ためらったが、ラクシュは小さく頷く。
「でも、きみは、尻尾触られる、嫌い……」
くくっと、低い笑い声が聞こえた。
「嫌いじゃないですよ。ただ、触られると、ラクシュさんを抱きたくなるから、困ってたんです」
「あ」
そういえば、人狼の尻尾は性感帯だったと思いだした。
「触ります?」
そそのかすように、囁かれる。
「……いい?」
「はい。でも、我慢できなくなったら、抱かせてくれますか?」
「ん」
頷くと、ひょいと横抱きにされて、アーウェンの寝室に連れていかれた。日当たりの良いこの部屋に、ラクシュは数えるほどしか入ったことがない。
けれど今日は曇りだし、あと数時間で夜になる。
アーウェンはラクシュをベッドに下ろし、念のためにとカーテンをしっかり閉めたあと、ベッドに腰を降ろす。オリーブ色の尻尾が、シーツの上でパサパサ揺れていた。
「ん……」
スリッパを脱いでベッドに横たわり、尻尾を抱きしめると、やっぱりとても気持ちいい。眼を瞑って頬をすりつけたら、ビクンと跳ねて逃げそうになった。
「っ!」
アーウェンが短く息を飲んだのが聞こえた。
発情しているらしく、彼からいい匂いが強くする。けれどラクシュの血飢えは満たされているから、今日は噛んでしまう心配はない。
―― すごく気持ちいいなぁ。
パサパサ跳ねる尻尾を、身体を丸めてしっかり捕まえる。
「ん……」
横たわってジタバタしていたので、ローブの袖や裾が、もうずいぶんと捲れてしまっている。
腕や太ももに少しだけ触れる尻尾が、ものすごく気持ちいい。
心地いい感触と、大すきなアーウェンの体温にうっとりし、できればローブを脱いで全身で堪能したい……という欲求が競りあがってきた。
チラっとアーウェンを見上げると、口元を手で覆い、瞳へすでに虹彩を宿している。
「アーウェン……ちょっとだけ……お願い……」
我慢できずに上体を起こし、囁きかけた。
「っは……なんですか……? 俺、もう……早く、ラクシュさんを抱きたくて……」