そうだ 街に行こう-4
身をかがめて、黒いフードの中を覗き込む。
「……俺を、喜ばせようとしてくれたんですか?」
「ん……」
小さく頷かれ、たまらずに抱きしめた。
「アーウェン?」
腕の中で小首を傾げる相手は、いつもと同じ無表情だし、赤い瞳は胡乱に澱んでいる。
この寛容な国ですら、忌み嫌われ討伐される吸血鬼……それでも周囲を憎くんでばかりだったアーウェンが、世界で一番愛している存在だ。
自分も彼女に愛されたいと切実に思ってしまう、たった一人の奇妙な吸血鬼だ。
「大成功ですよ。俺、最高に嬉しいです」
盛大に顔がニヤケて、止まらない。
そういえば以前、何かの折にあの店の話をしたことがある。
ほんのたわいない会話だったのに、ラクシュはアーウェンが好きな店だと、ちゃんと覚えていたのだ。
「ラクシュさん……一つだけ、お願いがあるんですが」
ラクシュの身体を離し、照れくさいけれど頼んでみた。白い手をとり、そっと指を絡める。
「家に帰るまで、手を繋いでくれますか?」
「ん」
細い指が、アーウェンの節くれ立った指に、きゅっと絡んだ。
***
ゆっくり歩いて家に帰り、とても名残惜しいがラクシュの手を離した。
「……すごく、楽しかったです」
「ん」
ラクシュは満足気に頷き、黒いフードを降ろす。短い雪白の髪がサラリと零れ落ち、見慣れたその色に、何かくっ付いているのが見えた。
「ラクシュさん、それは……?」
フードを取って初めて見えたが、ラクシュは髪を一房、細い革紐で結んで赤い鉱石をくくり付けている。
「ん」
重々しく、ラクシュが頷く。
とても満足そうだ。
「なにか、飾りつける……好きな人と、出かける……印……らしい」
―― ラクシュさん、オシャレまでしてたーーーーーっっっ!!!!
思わずよろけたアーウェンは、居間の柱に頭をぶつける。
「アーウェン?」
小首をかしげるラクシュを、夢中で抱きしめた。
「ああああ!!! ラクシュさん、大好きです!! 俺のラクシュさん!!! 絶対、一生、離しませんからねっ!!!!」
アーウェンにぎゅうぎゅう抱きしめられながら、ラクシュが小さく頷く。
「……ん」
とてもとても、満足そうな声だった。
終
*** おまけ ****
(……ラクシュさん、なんで頑なに俺から目を逸らすんだろ……?)
(……アーウェン、さっきから、きみは眩しすぎるよ)
*歓喜のあまり、アーウェンのキラキラ度、通常の5割増し