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キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい
【ファンタジー 官能小説】

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そうだ 街に行こう-2


 ***

 ―― 昨日の夜のことだった。

『アーウェン……明日は曇り……私、街に行く』

 夕食の後、食卓で静かに紅茶を飲んでいたラクシュが、唐突にそう言ったのだ。
 アーウェンはビクリと身体を強張らせる。握っていた陶器マグの柄に、大きなヒビが入った。

『っ!? 俺も、絶対についていきますよ!』

 いきなり出て行くと告げられた時のショックは、しっかりトラウマになっている。

『絶対に行きます! 駄目って言っても、ついていきますからね!』

 思わず立ち上がって涙目で怒鳴ると、ラクシュは小首を傾げた。

『ん?』

 そして少し考えてから、言い直した。

『……アーウェン、明日は曇りだよ。私と、街に行こう』

 どうやら最初から、アーウェンと一緒に行くつもりだったらしい。
 たはたはと足から力が抜けて、椅子にへたりこんだ。

『なんだ……はい。行きます』

 明日は乾燥果物を作ろうと思っていたが、曇りならどのみち無理だ。

(それにしても、ラクシュさんが街に行こうなんて、珍しい……)

 ここ数年、ラクシュは家から一歩も出ていない。
 以前は魔道具を売って日用品を買うために、月に一度くらいは二人で街に出かけたが、最近ではずっと、アーウェンが一人で行っている。
 血飢えの体調不良が大きな原因だったが、そもそも彼女は昔から、よほどの事がなければ、街には行かなかった。

『何か、大事な用ですか?』

 気を取り直して尋ねると、食卓の向いに座ったラクシュは頷いた。

『アーウェンと……街で、ゴハン食べる』

『……え?』

 一瞬、聞き間違いかと思った。

『えっと……じゃあ、お弁当作りますね』

 ラクシュは数年前、街の食堂の一軒で鳥ガラスープを飲んで以来、外食が大嫌いだ。
 あの時の苦しみ方は凄まじく、アーウェンもラクシュに外食は絶対させるまいと決意した。
 ところが、ラクシュは雪白の短い髪を左右にパサパサ振る。

『食べる店、決めてある。私、気をつける……心配ないよ。明日…………楽しみ』

 そして紅茶のマグを持って、さっさと工房に篭ってしまった。
 取り残されたアーウェンは、椅子に腰掛けたまま茫然とする。

(はぁ!? 楽しみ!? ラクシュさんが、俺の作るメシ以外を、楽しみ!?)

 ……もの凄く、ショックだった。
 そのまま不貞寝し、起きてから八つ当たり気味に欲情して、妄想の中でラクシュを散々抱き、余計に落ち込んだ。

 ……最悪な気分だ。


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