変心-14
男は下半身を露出させたまま、濡れタオルで恵の顏を拭き、食事の支度をした。それは恵にとって己の努力で勝ち取ったものだった。
正直、男の尿を飲んだため、喉はそれほど乾いていないが、口の中に残る精液の不快な感触を洗い流すために、一刻も早く口をすすぎたい。だが、男は食事の用意を終えてもいまだ去らず、ベッドに腰掛けタバコを吹かしていた。恵は床に座ったままだ。恵は、犬のように這いつくばって水を啜る姿を男に見せたくはなかった。
“もしかして、もう一回するつもり…?”
会話も無く、恵を見もせず、視線を宙に漂わせ紫煙をくゆらす男の横顔を、恵は不安をたたえた瞳で見つめた。
これから先があるならば、口の次は性器を使ったセックスだろう。また中出しされるのか。カウントが増えるのは嬉しいが、中出しは絶対嫌だ。金曜日の時点で前回の生理から20日だったから、もうすぐ生理が始まるはず。それまでなんとか避けなければ…。
二人目の出産までは不定期だった恵の生理周期は、出産を機に比較的定期的になっていた。現在はほぼ28日周期だ。今回も同じだとすると、現在は生理前の姙娠しにくい時期だろう。しかし、だからといって中出しセックスをするのは非常に抵抗があった。
もちろん、男はそんな恵の心理も本人以上に分かっていた。
恵が性器を使ったセックスに抵抗がある理由は、もちろん第一に姙娠リスクがあるからだろうが、第二の理由としては、口で行うフェラチオより、不貞を働いている感が強いからだろう。しかし、恵の心理の奥底…意識できない部分には、さらにもう一つ理由が在るはずだ。
“俺とのセックスで性的快感を得てしまうかもしれないという不安がな。”
前回のセックスでは前戯も何も無しに、バックから獣のように犯した。まさにレイプだ。当然、恵は快感など感じなかっただろう。愛腋分泌も単に膣を擦過から守るための生理的現象だ。
男は監禁の最初から今に至るまで、一切恵に愛撫などしていなかった。クリトリスや腟口は勿論、Aカップの胸すら触っていない。理由は1に支配する者とされる者、奉仕する者とされる者であるという認識を植え付けるため。2に自殺を防ぐため。心が折れていない状態で強制的に快楽を与えると、自責の念により自ら命を絶ちかねない。3に調教をスムーズにするため。快感を感じてしまうと、奉仕することに後ろめたさを感じてしまうため、恵の積極性を引き出しづらくなるからだった。さらに4番目の理由もある。それは、初めて快感を与えられた時のインパクトをできるだけ大きくし、恵の心を完全に折る切り札にするためだ。
以上の理由で、男は現段階で恵に快感を与えるつもりはなかった。今はそれより進めるべき行程がある。順調に育ちつつある恵の性奉仕への積極性をより大きくすることだ。
男は立ち上がり、床に座して指示を待つ恵に声をかけた。
「ベッドの端に横向きに寝ろ。」
やはり犯されるのかと恵は身構えた。
「イヤ…。」
思わず拒絶の声が漏れる。直後、『まずい!』と思いはしたが、もう遅い。恵は怯えた目つきで男を見た。
だが男は何も聞こえなかったかのように無反応だ。恵は拒否したいという心を一瞬でねじ伏せ、急いでベッドに壁側を向いて横になった。せめてもの反抗か、尻を突き出すような姿勢はとらず、くの字に身を丸める。
だが、そこで意外な声が降ってきた。
「こっちを向け。」
「?」
てっきり、後ろから犯されるものとばかり思っていた恵は、訳が分からないまま男の言葉に従った。
男は寝返りでずれた枕を直し、恵の髪の毛を鷲掴むと、頭をベッドの端ギリギリまで引っ張った。痛みに顔をしかめる恵を見下ろしながら、男はもう片方の手で己の陰茎を取り出した。
「口を開けろ。」
犯されないと分かったのだろう。恵は少し安心した様子で素直に口を開けた。
両足を大きく広げ膝を曲げ、股間がちょうど恵の口の高さに来るように調節した男は、池の岸でエサを待つコイの様に、パックリ口を開きチンポを待つ恵の口に己の肉棒を突っ込んだ。
「吸え。」
男の声に、頬が窪むくらい強く肉棒に吸い付く恵。
男はそのままゆっくりと口への抽挿を開始した。
“良かった。セックスじゃなかった…。”
妊娠リスクを回避できたことに安堵した恵だが、そこでハッと思い至る。フェラチオは前戯で、この後に挿入されるのかもしれないと。そんな恵の不安を見抜いたかのように男の声がかかる。
「最後まで口を離すなよ。」
その言葉に今度こそ本当に安心した恵は、肉棒に吸い付く力をいっそう強めた。
“この姿勢で勝手に動いてくれるなら、口以外はほとんど疲れないし、自分で動く分、イクまで時間もかからない。毎回これならいいいのに。”
性器による性交を回避しつつ一度に3回のカウントは、考えられる限り最上の結果と言えるだろう。今までより早く射精させることができたとはいえ、今もう一度恵が動く形でのフェラチオをするのはさすがに辛い。1回射精した後だけに、そうとう時間がかかるだろうから。
口内を出入りするペニスの感触を感じながら恵は思った。
しかし、現実はそう甘くない。男には別の思惑があった。