変心-12
そして、男はやって来た。
ドアノブが回る気配を感じ、恵は身を起こした。男は部屋の中央でビニール袋を下ろし、恵の前まで歩いて来た後、当たり前のように陰茎を取り出した。
「しょんべんだ。」
恵は無言でベッドを降り、男の足下に正座した。
目の前にあるペニスの尖端を頬張る。
数秒後、男は恵の口内に排尿を始めた。
恵の口の中で男の亀頭が震え、尿が吐き出される。その勢いは思った以上に強く、喉を直撃しない様に反射的にブロックした舌のせいで、恵の小さな口腔はあっという間に尿で満たされた。怒ったフグの様に頬が膨れた。
“溢れる!”
恵がそう思った時、排尿は止まった。恵は口から尿をこぼす寸前で何とか踏みとどまる。男は何の指示もしないまま、チンポの先にくっつき、己の小便で頬を膨らます恵をじっと見つめていた。
鼻で呼吸するたびに口の中の尿の臭いが鼻を抜ける。中途半端な温かさが気持ち悪い…。このままでは吐いてしまいそうだ。しかし、これを吐いたらもう次は無い。食事を与えられないまま餓死し、二度と子供達に会うことはできないだろう。
“飲まなければ!”
恵は決死の覚悟で尿を飲み下した。ゴクゴクと喉が鳴る。
やっとの思いで飲み終え、口を陰茎から離そうとした時、上から声が降ってきた。
「まだだ。」
“…!?”
そう。まだ排尿は終わっていなかった。
確かに男は1、2秒しか排尿していない。男の尿はいきなり口の中に出てきて、いきなり止まった。そういえば前回もそうだったではないか。この男は自分の意志で排尿を中断しているのだ。恵が飲みやすいように。
“これをあと何回も?”
恵にとっては、いっそ1回で最後まで出し切ってくれた方が良かった。確かに尿は口から溢れて零れるだろうが、その分、飲み込む量は少なくて済む。このやり方だと本当に全ての尿を飲まなくてはならない。
ペットボトルの時は勢いよく飲んだので気にならなかったが、今回は尿を口の中に溜めたせいで、臭いだけでなく味も感じてしまった…。
早くも挫けそうになる恵だったが、必死で自分に言い聞かせた。
“我慢しなきゃ。”
男は恵が落ち着くのを待ち、排尿を再開した。
またもや口の中が男の尿で一杯になるが、今度は恵はできるだけ早く飲み込んだ。再び始まる排尿。溜めてから飲み込む恵。回が進むと共にコツが掴めてきたのか、排尿、嚥下の間隔は次第に短くなっていった。
チンポの先で膨れては戻り、膨れては戻りを繰り返す恵の顔を見ながら、男はポケットからカメラを取り出した。
「パシャ!」
男は今までより多少多めに排尿し、小便で頬がパンパンになっているタイミングでシャッターを切った。その音は恵がまた一歩ゴールに近づいたことを告げる音だった。
3分ほど経ち、恵の胃が男の尿で一杯になった頃、ようやく排尿は終わった。
結局、恵は一滴も零すことなく、男の小便を飲みきった。
飲尿が終わった事による安堵と共に不思議な達成感が恵を満たす。アンモニア臭は未だ感じるものの、慣れのせいか、もうそれほど気にならない。それより、この苦行を乗り越えたことに喜びを感じていた。
「よく頑張った。」
恵の様子を観察しながら、男は絶妙のタイミングで労いの言葉をかけた。いっそ露骨なくらいの飴と鞭だったが、鞭の厳しさが尋常じゃない分、飴の甘さが身に染みるはずだ。
案の定、陰茎から口を離し男を見上げた恵は、思わず嬉しげな顔を男に見せた。しかし、それも一瞬で、すぐに下を向き険しい表情になる。理不尽極まる行為をさせた当の本人に向ける顔でないことに気づいたからだ。
“くくっ…いいさ。その理性も次第に失っていくんだからな。”
恵にとって100のカウントは至上の価値を持つ。解放のカウントダウンであり、命を繋ぐ食券でもある。放っておいても自然とカウント稼ぎに積極的になっていくだろう。だが、その為には辛い性行為を我慢しなければならない。その試練を踏ん張り耐えてやり抜いた時得られる充足感は、カウントの価値と比例して非常に大きいはずだ。その時に、滅多に無い労いの言葉をかけられれば、例えそれが自分を苦しめている張本人のものだとしても嬉しくなってしまうものだ。
“そして、お前は徐々に俺の事を憎めなくなってゆくのさ。”
恵の男に向ける感情が変化を遂げた時、男とのセックスは、それまでとは異なるものを恵にもたらすだろう。
男は内視鏡を使う医師のように恵の心を覗き込んでいた。