2.幸運は勇者以外にも味方する-6
わずかに画像の周辺に黒いモヤがかかっている。カバンなどに忍ばせたカメラで撮ったのだろう。何枚かスライドさせると、男自身の手が写り、1万円札を数枚手渡していた。
(こんなブス相手に、よく大金払う気になるなぁ……)
いかにもギャル、という感じの女の子に金を渡している写真の次は、打って変わって暗い場所だった。マイクや選曲ブックが写っているからカラオケボックスだ。歌詞の映るモニタの明かりが並んで座る二人の少女を照らしている。
(ん……!?)
さっき立っていて写っていなかったもう一人の子は、とびきり可愛かった。つまらなそうな態度で、こちらに冷ややかな視線を向けているが、そういった表情ですら可愛い、──いや、少女に対して思うのはおかしな話かもしれなかったが、キレイだった。
「何だ……、何だ、こりゃ」
思わず声に出てしまっていた。慌てて周囲を見渡すと、ベッド脇に転がっていた雑誌を手にとる。今週発売の青年雑誌だった。この雑誌が発売されるやいなや、ネットの巨大掲示板のグラビアアイドルの各スレッドは話題騒然だった。
もともと村本は瀬尾悠花を知っていた。ティーンモデルから、女性向けの雑誌へ移籍した頃に本屋で見かけ、単独表紙を飾っている笑顔が、あまりの自分好みとの一致に驚いて、すぐにネットで素性や経歴を調べた。ネット上にある画像ファイルを大量に収集すると、そのスタイルにしても、顔立ちにしても、すべて自分の理想と違うところがなかった。以来、村本のような男向けではない『La Moda』の定期購読を申し込み、毎号取り寄せるようにしている。しかも二冊。一冊は丁寧に分断して、悠花のページをスキャナで取り込む。専属誌以外のメディアに露出した時も、必ず手に入れて、その美しい姿をコレクションしてきた。
そんな瀬尾悠花のルックスを忘れるはずがなかった。雑誌の悠花をノートパソコンの画面に並べて確信が色濃くなると、今度はデータフォルダをクリックし、ネットで手に入れた瀬尾悠花の卒業アルバムの画像と比べてみた。
──似ている。いや、これは間違いなく同一人物だった。
USBメモリの中の画像をスライドしていく……。すると、画像に男茎の影が大写しになった。その向こうで、学生時代の瀬尾悠花が睨みつけている。男茎を握っている手は、もう一人の少女のものだろう。
(悠花ちゃんが……、いや、まさか……)
スライドを進めると、突然悠花がいなくなった。そのかわり、男茎に向かって降りてくる陰毛の影が映る下腹部のシルエットが現れる。何枚か、明らかに挿入しているシーンがつづくと、突然画像集は終わった。
何回も先頭から見直した。この売春を行っているのは瀬尾悠花だろうか。いや違う。もう一人のブスのほうだろう――。注意深く画像を分析すると、太ももの太さやスカートのヒダの感じが、明らかに悠花のものではないことがわかってきた。
理想の女性である瀬尾悠花が淫行などしていない、と、心のどこかで安堵を覚えた。
しかし、そのような場にいた事は間違いない。
村本はそれから時間を忘れてネットを調べまくった。ひとつの手がかりは、瀬尾悠花が身にまとっていた制服だ。それは都内の有名私立女子校のものだった。悠花の出身高校ははっきりしている。J女学院卒ではない。
画像に映る物を色々調べたが、そこから以上、なかなか有効な情報は得られなかった。
(他に何か……)
村本はフォルダ名を思い出した。――"Love Affair"。
この語句でネットを調べていく。そもそもの英語的な意味や、この名が付いた映画、音楽……、無関係の検索結果の中、上野近辺にあった出会いカフェに行き着いた。この店は数年前に既にガサ入れにあって閉店していた。当時のニュース記事によると、「店舗側で制服を用意し、10代の少女に着せて売春行為を斡旋していた」とある。なるほど、瀬尾悠花は店側で用意していた制服を身にまとっていただけなのだ。