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LOVE AFFAIR
【アイドル/芸能人 官能小説】

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2.幸運は勇者以外にも味方する-3

 汗や、生ごみなどの臭いがドアを開けた瞬間漂ってきた。主を失って暫く経った無人の部屋だが、そう簡単に消える臭いではなかった。「あの部屋、警察の方で何とかなりませんかねぇ……」。管理会社に委託されている不動産屋の老人が、鍵を渡す時にそう言っていた。確かにコレを賃貸に出そうと思ったら、まずこの悪臭をなんとかしなければいけない。それにドアを開けて中に見える部屋の様子……、雑誌や脱いだ衣服が散らばっていて、畳の上にはいくつものシミがある。これをすべて元通りにするには、かなりの修繕費用が必要だ。
「いや、クサイよ。俺も」
 そう言いつつも、一応玄関で靴を脱いで中へ入っていった。
「……あの、すんません。やっぱ俺、ムリっす」
「ああ、じゃあ、ニオイがしないところで待っててくれ。俺がやるよ」
 はい、と言って、若い警官はドアの前から離れた。
(オタク野郎の臭いだ。やっぱ村本さん、慣れてんだろうな)
 村本にオタク趣味があるというのは、若い警官だけでなく署内皆が知っていることだった。警察官とはいえ、趣味は自由だ。勤怠が極端に悪くなければ、趣味自体をとやかく言う者はいない。
 村本の父親は政令指定都市であるK市で何年も市会議員を務めた名士だった。もともとは地元で日用品を売る大手企業の創業者であり、今や県内に何店舗も展開している。いつか国政に打って出るだろう、そう目する者もいたが、結局父親は立候補することなく、隠居の身となった。政争がうまく乗りきれず、地盤が整わなかったのではないかという噂も流れたが、実情は違った。父親は敢えて大きな舞台に出ることはせず、自らは身を引き、裏から働きかけた方がより大きな力を発揮できると考えたのだ。その証拠に村本の兄は東大を卒業後、当県を選挙区とする代議士の秘書に収まっており、かつては国務大臣も務めたその代議士は、輸入規制の緩和などに尽力し、結果村本の父親が経営する会社は更なる拡大をみた。その社長の座は、村本の妹の婿になった男が承継していた。銀行のエリートコースにいた男をヘッドハンティングし、娘婿としたのは誰の目から見ても政略結婚だったが、それを批判する者は皆無だった。エリートコースにいただけあって義弟は優秀で、経営は極めて順調だった。
 そんな兄、妹を持った村本は、真ん中にあって特に出来が悪かった。もともと淡麗な兄と妹に比べて、父母の悪いところだけを引き継いでしまった。村本は、見た目の自信のなさからか思春期のころはとにかく内向的で、人と全く話せなかった。私立の中高一貫校にいた頃は、普通ならばイジメの対象にでもなりそうなものだが、「あの村本一族の息子」ということが知れ渡っていて、みんな遠巻きに、必要以上に関わろうとしなかった。かといって村本には自分から話しかけていくほどの器量はなく、友人は一人とていないままの6年間を過ごした。
 大学受験に2度失敗すると、父親が警察学校を薦めてきた。
「大丈夫だ。口をきいておいてやる」
 この時点で親父は自分を見限ったのだろう。……いや、もっと前からかもしれない。
 既に父親は自分と会話することは殆どなくなっていた。東大の卒業を前に、省庁に入るか、すぐに代議士秘書の道へ進むか、父親の興味は兄の卒業後の身の振り方にのみ向いているようだった。
 特技があるわけでもなく、体力があるわけでもない。しかし人気の公務員職で競争率が高いはずなのに、村本はすんなりと合格を果たした。本当に父親が力を奮ったのだろう。近しい人物には次男のデキの悪さは知れていたから、父親は、警察官に収まってくれれば十分格好がつく、と思ったに違いない。


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