prohibition―始まりの雨―-1
桜の花びらを散らす雨。
私の思いもこのまま散ってしまえばいいのに…。
一生咲けない蕾ならいっそのこと……。
―――始まりの雨―――
PiPiPiPi…。
携帯のアラームで空を飛べる世界から呼び戻された私は夢見心地のまま起き上がった。時計の針はちょぅどAM6:00を指していた。
私は眠けとダルさと戦いつつも学校へ行く準備をしていた。いつもは『学校なんか行きたくない』と思いながらダラダラ時間を過ごしているのだが今日は少し違った。
4月10日。今日から私は高校3年生になる。新学年が始まるということが私の気持ちを少しだけ軽くさせた。
それでも朝の電車は億劫だ。人の波に押しつぶされ、身動きがとれない。その上、鞄が意志を持ったように何処かへ行ってしまい、自分の手を犠牲にしながらつなぎ止めておく事で精一杯だ。
この時間をなんとか乗り切り、駅で待ち合わせている友達と学校へ向かう。また今日から毎日これが続くと思うと気が滅入ってしまう。
「おはようございます」お決まりの朝の校門挨拶を通り抜け私は自分の教室へ向かった。
「おはよう」
教室に入りみんなに挨拶する。久しぶりの顔触れだ。
「おはよう、美羽」
教室にいた唯一の女の子、香絵(かえ)が挨拶をしてくれた。
「おはよう。」
他の男の子達の声が次々と聞こえてきた。
私が席に着くと香絵が側に来て
「春休みはどぉだった??」
と聞いてきた。
私が
「な〜んも。バイトして宿題して寝ただけ。」
と答えると
「まぁそんなもんだよね。」
と香絵が言った。
私は
「はぁ!?香絵はプーさんとラブラブだったくせに…」
と皮肉っぽく言うと香絵は照れながら
「そんなにラブラブじゃないってぇ。ちょっと遊んだだけだよ。」
とか言いながらプーさんと見つめあってた。
プーさんは香絵の付き合って2ヶ月の彼氏で同じクラス。体格がくまのプーさんそっくりだからこんなあだ名になった。
「はいはい…。勝手にイチャイチャしとけっ!!」と私は軽く言い放ち、私の言葉通りイチャつきだした2人の側を離れた。窓を開けて、まだ寒い春の風を頬に受けつつ外の様子を伺うと、気怠そうに登校してくる2、3年に混じって、制服を規定通りに着、少し緊張した面持ちで校門を通り抜ける1年生の姿があった。『私にもあんな時期があったんだな…』と1人思いにふけりつつボーっとしていた次の瞬間、ある光景に目が釘付けになった。黒いスーツに身を包み、一足早く満開の春を引き連れて悠然と歩く1人の男がそこにいた。挨拶もせずに早足でこっちへ向かって来るその男に私は一瞬で心を奪われてしまった。その男は職員室へ向かっていた。その途中ふと上を見上げてきて私と目が合ってしまった。
まるで死んだようなキレイな瞳。説明になっていないかもいれないが、私は確かにそぉ感じた。
永遠に感じられた時間…。それはほんの一瞬だったハズ。だけど広い世界で2人きりしかいない、まるでアダムとイブになってしまったような感覚に襲われた。