残酷な優しさ-1
陽介は鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔であたしを見つめていた。
それもそのはず、今まで好き勝手に扱えた都合のいい女が突然豹変したのだから。
いつもニコニコ笑って、ズルい所も責めずに、欲望のままに弄ばれるだけの女はもういない。
「くるみ……?」
「情けないのよ、他の男の名前が出てきたくらいで慌てちゃって。あんなダサいとこ初めて見た。幻滅」
はあ、とため息をついてから、あたしはハンガーに掛けられていたカットソーを手に取る。
手揉み洗いをしたお陰でアイスコーヒーのシミは大分薄くなっていた。
だけど完全に落ちないそのシミ。
仕方ないからこの服はお気に入りだったけど、捨ててしまおう。
大きめのトートバッグにそれを丸めて入れると、あたしは無意識のうちに何かに頷いてから再び陽介に向き直った。
相変わらず呆気に取られたままの陽介を見てると、涙が出そうになる。
――幻滅なんてするわけないじゃない。
ズルい所も、調子がいい所も、女の子に不誠実な所も全て知ってるあたしが今さらダサい所を見たって嫌いになれるわけがない。
寧ろ嫌いになれていたら、どんなに楽だったか。
柔らかい髪の毛も、骨ばった指も、血管の浮き出た腕も、猫みたいにつり上がった大きな瞳も、薄い唇も、みんなみんな大好き。
今まで溜め込んでいた想いが胸いっぱいに溢れてくる。
「……陽介」
「ん……?」
――大好きだよ、陽介。
喉まで出かかった想いを押し戻すように、生唾を飲み込んでから、あたしは陽介に向かって口を開いた。
「あたし、そんなダサい男はもういらないわ」
腕組みをしてそう言うと、陽介の眉がピクリと動いた。