残酷な優しさ-9
「それでも、何度も告ろうって思ってたよ。だけど……」
「だけど……?」
「お前さ、遊んでる男がいいっていつも言ってただろ? 彼氏とかそういうのはしばらくごめんだって」
「……陽介、それは……」
違うの、誤解なの。そう言おうとする前に、陽介が先に口を開いた。
「それがいつも引っ掛かってたから、告るに告れなかったんだ。そういうのがウザいって思われるのが怖くてさ。だけど言いたい気持ちはやっぱりあって。だから結局冗談っぽくしか言えなかったんだよな。ホント、ヘタレ」
自嘲しながら陽介は、またテーブルの上の煙草に手を伸ばした。
咥え煙草にカチリとライターが着火する音。ため息のように吐き出される煙。
……あたし、陽介にちゃんと愛されていたんだ。
自分を惨めにさせたくなくて吐いた小さな嘘。それが歯車を狂わせていたなんて。
ギリッと歯を噛み締める音が脳内に響いた。
「お前はそんな俺の気も知らないで他の男と遊びまくるし、かたやこっちは告る度胸もなくて、そんな自分に嫌気がさしてさ。だったらこっちもとことん遊んで、他にカノジョ作って、お前に気持ちなんてねえってとこ、見せてやりたかった」
「…………」
「でも、悔しいけどやっぱりくるみが好きなんだよな。他の女抱いていても、くるみを抱きたくなって結局戻ってしまうんだ。そんな自分が情けなくて、でもお前にそれを見抜かれたくなくて、精一杯強がって、ああいう抱き方ばかりだったんだ。気持ち込めたらもう歯止めが効かなくなりそうだったからな」
陽介とあたしの間は完全に歯車が狂っていた。
……他の男と遊んだりしてたのは、陽介にハマっていく自分が怖かったから。
陽介にのめり込んで、スグルと別れた時に知ったあの胸の痛みと同じ痛みを繰り返すのが怖かった。
どんな男に抱かれても、結局陽介のことばかり。
でも、陽介はそんなあたしの心の内を知らずにいて、あたしもまた陽介が抱えていたものを知らずにいた。
陽介が、こんな想いを抱いてくれてたと知っていたら。
陽介の言葉に、あたしは下唇を噛み締めるしか出来なかった。