残酷な優しさ-5
「あの……、ごめん、言い過ぎた。お前は悪くねえ」
「でも……」
言いかけたあたしの言葉を、陽介は静かに頭を振って遮る。
「こうなったのは、俺がだらしなかったからなんだ。別れたってお前に電話してしまった俺が悪い。ホント情けねぇ。結局フラフラしてばっかだ」
「陽介……?」
「俺、メグと付き合うときに、女関係を全部清算したってのは……わかるよな」
「……うん」
いきなり電話もメールも繋がらなくなったあの絶望感が甦り、噛み締めた唇に更に力がこもる。
同時に簡単に切り捨てられるセフレという関係の脆さを痛感した。
「俺がそこまでしたのはなんでかわかるか?」
「恵ちゃんが大事だったからでしょ」
「まあ……それはもちろんなんだけど……」
やけに言いづらそうに目を泳がせていた陽介は、やがて覚悟を決めたように、あたしをまっすぐ見つめてこう言った。
「本当はお前の存在が怖かったんだ」
言葉の真意がわからなかったあたしは、ただ黙って陽介の薄い唇を見ていた。
「怖いって言ったら失礼だな」
フフッと小さく笑ったと思ったら、陽介は、今度は少しだけ優しい目をして口をゆっくり開いた。
「……無理矢理にでも連絡先を断たなきゃ、いつまでも前に進めないって思ったからさ」
「…………?」
何を言いたいのだろうと、じれったく思う反面、心臓はバクバクとさっきから落ち着かない。
ガシガシ髪の毛を掻きながら目をそらす陽介の仕草には見覚えがあった。
照れ隠しの時の癖だ。
パチンコで勝ったからと、ご飯を奢ってくれた時があった。
カノジョよりも先にあたしを誘ってくれたのが嬉しくて、柄にもなくはしゃいでしまったんだっけ。
嬉しいとお礼を言ったらこんな仕草をしていたなと、そんなことを思い出しながら、ボンヤリ髪の毛を掻いている陽介を眺めていると、彼は一つ頷いてからあたしに向き直った。
「くるみ……」
やけにもどかしい間。ひたすら跳ねる心臓。
しばらく口を真一文字に結んでいた彼は、ゆっくりそれを開かせると、
「……俺さ、ずっとお前が好きだったんだ」
と、静かに言った。