残酷な優しさ-4
それでもまだ恐る恐ると言った彼の表情を一瞥してから、あたしはニッと歯を見せた。
「さあ、それはどうかしら。だって、せっかく勇気を出してヨリを戻したいって伝えに来たら、部屋着を着た女がいるんだもん。愛想尽かして当然よね。普通ならもう無理よ、ご愁傷様」
応援したい気持ちと振られて欲しい気持ちが混ざり合う。
好きな人に純粋に幸せになって欲しいって願えるほどいい人には、まだなれない。
本音はあたしが陽介の隣で笑顔にさせてあげられたら、とは思うんだ。
だけど肝心の陽介が、恵ちゃんで頭がいっぱいだからあたしが退くしかない。
そう考えると、無性に腹が立ってくる。
……ムカつく、この鈍感男。
べーッと舌を出すあたしに、陽介はなぜかプッと噴き出した。
「ひで―……。そこは、『きっと大丈夫』って励ます所だろ」
そう言いながらもあたしの悪態を笑って受け止める陽介。
「気休めは言えないのよ、あたし」
つられてあたしもクスクス笑い出してしまい、さっきまでの辛気臭い空間が柔らかくなった気がした。
だけど、その刹那。
「事態がこじれたのは誰のせいだと思ってんだよ」
陽介が笑いながら何気なく言った言葉に、あたしは思わず顔を曇らせた。
同時に陽介もハッとした表情になる。
笑い合って和みかけた空気が再び凍りついた。
「そ、それは……」
冗談のつもりで言ったのだろうけど、それはあたしの胸に刃となって突き刺さった。
そう、あたしのしたことは、決して許されることじゃない。
陽介に本気で想われている恵ちゃんが憎くて羨ましくて。
陽介を自分のものにしたいがために、恵ちゃんと陽介の間に溝を作らせた。
自分のことしか考えないでとった行動は、陽介を傷つけただけ。
恵ちゃんに切り捨てられた時の陽介の横顔が、あたしの胸をギュッと締め付ける。
「……ごめんなさい」
気付くとあたしは、消え入りそうな声で謝っていた。
弱々しく、震えた謝罪。
自分の愚かさに涙が込み上げてくる。
ごめんね、陽介。
……ごめんね、恵ちゃん。
まともに陽介の顔が見れないで俯いていると、ポンと優しく頭を叩かれる。
驚いて彼を見上げれば、バツが悪そうに目をそらす陽介の顔があった。