残酷な優しさ-3
後ろ暗い関係を続けてきたあたしに背中を押されるとは思わなかったのだろう、あたしの言葉に陽介が目を丸くした。
「そんなに好きなら、他の男から奪い返してやるくらいの意気込み見せてきなよ。どうせもうめちゃくちゃカッコ悪いんだし、なりふり構わず足掻いてくれば?」
「……だけど、自分から別れようって言った手前、やり直したいなんて勝手なこと言えねえだろ……」
よっぽど自信がないのか、語尾なんてほとんど聞こえなかった。
ホント、恵ちゃんのことになるとこんなにも情けなくなるなんて。
あたしは下唇をクッと突き出し目を伏せている陽介の頭を、思いっきり叩いてみせた。
「痛ってえ! 何すんだよ!」
咄嗟に出た大声が部屋中に響く。
「あんた、バカじゃない?」
「は?」
「今まで自分勝手にやりたいようにやって、色んな女の子泣かせまくってきたくせに、何今さら弱気になってんのよ! ホント恵ちゃんが相手だと情けないのね」
痛い所を突かれた陽介は、グッと言葉を詰まらせる。
でも裏を返せば、恵ちゃんに対しては、自分勝手に振る舞って嫌われるのを恐れているってこと。
それほど恵ちゃんの存在は特別なものなのだろう。
そんな恵ちゃんが羨ましくてたまらない。
「恵ちゃんの方がよっぽど根性あるわよ」
「何でだよ?」
「振られた男にもう一度やり直したいと伝えることが、好きな人に好きって言うことが、どれだけ勇気のいることだと思う?」
好きな人にちゃんと好きと言える恵ちゃんが羨ましくてたまらない。
「…………」
「人を好きになるって、綺麗事だけじゃないの。ダサくて、みっともなくて、カッコ悪くて……。だけどみんな、好きな人に愛されたいって一生懸命なんだよ」
言ってるそばから舌がもつれて、声が震えてくる。
あたしだって、もっと形振り構わずに自分の心をさらけ出せばよかった。
陽介に向けた言葉は、あたしが自分に向けた言葉。
もっと早くにそれに気付いていたら――。
自分にそう問いかけてから、あたしはフッと自嘲する。
そんな過ぎたことはいくら考えていたって仕方ない。
だったら、せめて陽介があたしと同じような後悔をしないように、背中を押すだけだ。
「……まだ間に合うかな」
独り言みたいに、ポツリと呟いた陽介に、あたしは目を細めた。