止まない雨-2
…もういいや。帰ろう。
ここに居ても、悲しくて情けなくなるばかりだ。
そう思って、ベンチから立ち上がろうとした刹那、
「やっと会えた!」
背後から、彼女の声がして、僕はまさか…と半信半疑で振り返った。
そこには、深緑のブレザーに身を包んだ千香が、変わらない笑顔で僕を見つめて立ってた。
初めて見た千香の新しい制服姿。
まだまだ着なれないジャケットに、少し短い膝上のひだの大きめな深緑のチェックのスカートに、ピカピカの黒いローファー。
辛うじて変わらないのは、紺のハイソックスだけ。
言葉なく千香を惚けて見つめてたら、
「…なによぉ…、やっぱり服に着られてるように見える…?」
口を尖らせて、眉の辺りに揃ったふわふわした黒い前髪を手櫛で直しながら照れ臭そうに呟いた。
「…服が歩いてるかと思った…」
精一杯強がってそう笑うと、
「もうっ! 酷いよっ! シュウイチのバカっ!」
「ちょっ!! 冷たっ!!」
赤い傘を振り回して、僕に水滴をばら蒔きながら、声をあげて笑いだした。
それから、ベンチ越しに僕を抱き締めて、
「バカっ…、バカっ……」
震える声を絞り出すように何度も何度も繰り返した。
「バカで…ほんと、ごめんな…」
僕が好きな甘い髪の薫りがする千香の頭を撫でながら、これ以上の言葉が出てこなかった。
「許さないもんっ! 私がどれだけ不安だったか! どれだけ寂しくて寂しくて――」
顔をあげて涙混じりに訴える千香の唇を、そっと唇で塞いだ。
幾度となく交わしたキス。
だけど以前みたいに唇を重ねるだけのキスではなく、より深く溶け合うように、舌を絡ませあう濃厚なキスを交わしあい、僕らは寒い春の雨の中、熱い息を漏らして互いの体温を噛み締めた。
ゆっくりと唇を離して、千香を見つめたら、
「…ずっと…我慢してたんだからね…」
恥ずかしさで上気して涙目になりながらも、
「早くシュウイチに私の制服姿、見せたかった。いっぱいキスしたかったし……」
更に顔を赤くして、言葉を詰まらせて、僕の手を千香の胸に引き寄せて、
「…キスだけじゃなくて……」
小さな声で呟いた。
「…いいの?」
千香の言葉の意味を察して、思わず緊張して声が上ずってしまった僕に、
「夕方までは、家に誰も居ないの…だから……」
そう言って、僕を家に誘ってくれた。