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翼の記憶
【ファンタジー 恋愛小説】

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とある日常【悠久の王・キュリオ】編 アオイの初めてV-1


「カイはもう食べた?」



いつもキュリオと食事を共にしているアオイは一人の食事になれていない。



「あ、俺は先にいただきました」



じゃあ、とアオイは棚から紅茶のポットを用意し準備しはじめる。



慣れた手つきで紅茶の葉に湯を注ぐとよい香りが部屋に充満した。
こうやって幾度となくカイに紅茶を淹れているが、その時のアオイの気分で茶葉が変わるためカイは彼女の心がいまどんな状態なのかが手に取るようにわかってしまう。もちろんアオイはそのことに気が付いていない。おそらく無意識なのだろう。



目の前に出されたカップとソーサー。甘めのものをあまり口にしないカイは砂糖をいれない。そのことを把握しているアオイは自分のほうにだけ砂糖をいれ、テーブルに並べた。



「お待たせ、どうぞ」




「ありがとうございます。いただきます」




すっかり定位置となった向かい側の椅子にカイが腰掛ける。
カップを持ち鼻を近づけるとカイは、やっぱり・・・と内心呟いてしまった。



(この茶葉はアオイ様が気落ちしているときのものだ・・・)



「アオイ様本当に申し訳ありませんでした。俺がおかしなことを言ったせいで・・・」



するとパンケーキを口に運ぼうとしたアオイがその手を止めて口を開いた。



「うん?背を伸ばすならミルクがいいって教えてくれたのに?今日から頑張って飲むね」



「あ・・・」



(アオイ様に逆に気を遣わせてしまった・・・俺って本当に・・・なんていうか・・・)




ガックリとうなだれるカイを首を傾げて見つめるアオイの視界の端で、音とともに何がかはじけたような気がして窓の外に目をむけた。




「なんだろう今の・・・」




「あ、あれは・・・魔導師の光弾(こうだん)ですね」




この世界には花火というものがない。よって、祝砲や離れた者に合図を送る方法などは魔導師の光弾(こうだん)という無害なものが用いられる。火を使う心配もなく万が一にも火災にならないのだ。




「綺麗・・・たくさんの色が・・・」




「そうですね、これが夜だったらもっと映えて美しいでしょうね・・・」




「うん・・・」




生粋の剣士のカイは馬に乗ることは出来ても魔法を使うことが出来ない。魔法はどちらかと言えば頭脳派、剣士は明らかに肉体派だ。そのせいかカイの体は纏う衣装のせいで着痩せしてみえるが、その布の下は均整がとれた見事な筋肉がついている。



互いにもっと幼かった頃はそんなに体に違いがあるとは思っていなかった。
カイの背が大きく伸びたのも、ここ数年前からのことで今では完全に大人と子供のような身長差になってしまった。




(・・・私には特技といえるものが何もない・・・)

かつてまぐれで使えたらしい癒しの力も、あまりにも未熟すぎるという理由で一時的だがキュリオに封印されている。




「皆・・・えらいね」




「え?」




アオイの言葉に驚いたように顔を向けたカイは彼女の意図をはかるようにじっと見つめている。




「こんなにも人を魅了することの出来る魔導師もすごいし、カイみたいに強くて優しい剣士も素敵・・・お父様も・・・」




「アオイ様は将来の事をお考えなのですか?
まだ子供なんですから、今は遊ぶことが一番かと思いますよ」




(子供のうちは遊ぶことが・・・)




「おかしなこといってごめんねカイ、早く朝食すませるね」




どこか我慢しているような笑みを浮かべてアオイは一言も言葉を発せず朝食を終わらせた。




式典の様子を見てくるとカイが出ていくと、アオイは手頃な服をみつけて着替え、薔薇を手にしてこっそり部屋を抜け出した。




いつもならば父親のキュリオか遊び相手のカイを探すのだが、今日ばかりはそうもいかず・・・人目を避けて裏口に通じる階段をおりていく。




「・・・・」




俯き加減に廊下を歩いていると、甲高い女性の笑い声が響いた。
何を話しているかわからないが遠くからでもわかるほど豪華な衣装をまとい、美しく長い髪も綺麗に巻かれ輝いてみえた。




「・・・っ」



いたたまれず走り出したアオイは城外まで飛出し、城壁をまわって運よく正門の外側にあたる場所にたどり着いた。




(やった・・・っ!)



と内心喜んだのもつかの間、増えていく客人の多さに目を白黒させることになる。






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