終焉-2
「ついたよ」
第二研究所で停車した
「うう……美優 運転荒すぎだよ」
短い距離でもスピードを出すから首が痛い
「ごめん、ごめん、影山くん降ろそうか」
「ああ……」
狭い車から降りて背筋を伸ばしす
「んーー開放感!」
影山を降ろして第二研究所に連れて行った
ホコリのたまった玄関は以前来た時の僕の足あとがあった。
「ホコリクサッ、窓開けたい〜」
美優は文句いいながら和室の部屋に向かう。
僕は影山を操作して和室に入った。
変わらず部屋の真ん中に記憶書き換え装置が置かれていた
「そこに座らせて」
美優はテッシュでPCのホコリを落として電源を入れる。
「操作できるの?」
「とりあえずね」
中腰でキーボードを打っている。
影山に向き
「座ってだってさ」
と言って肩を押して座らせ、ケーブルの着いたヘルメットをかぶせた。
影山は正しく座って待っている
(「力の無い俺なら生きてる価値がない」と言っていた)
「力をもつ前に戻したら、価値観が違うんだろうね」
影山は表情も無く前を見ている。
「用意できたよ、どこまで戻そうか?」
「半年って言っていたから、その前だね」
「んじゃ〜 1年でいいか」
カチカチとキーボードを叩いている。
ヘルメットに電気が灯りゆっくり点滅した
「光ってる……」
「うん、雰囲気づくりって大切でしょ? 音までは出ないけどね」
「ダミーなんだ……」
「よし、こんな感じでいいかな……」
光が消えた。
「あれ? 消えたよ」
「うん、書き換え終わったからね」
「え、もう実行したの?」
「あ、始める合図欲しかったよね、ごめん」
「まぁ いいけど」
あっさり記憶が消えてしまった。
ヘルメットを外してあげる、
「これで普通の人間だね」
とはいうものの影山に反応はない。
これは操られている状態が続いているからだ、
一度スイッチをオフにすれば二度とオンにはならない
「ちょっとどいて〜」
美優は机から取り出した大きめのリモコンを押して影山を立たせた。
「うん、ばっちり効いてるね」
リモコンにはボタンが沢山あり、美優が操作すると、
かなり人間らしい動きをしながら影山が歩き出す。
「どう? うまいもんでしょ」
「確かに、美優って何者なの?」
「その質問飽きたよ、教えないって言ってるじゃん」
車中で何度も聞いたけど教えてもらえなかった。
たぶん竹中教授の共同開発者なのかな?
謎の多い人だったからなぁ
「んで、どこに行くの?」
「うん、影山くんのラストシーンに行くよ、幹夫にも演技してもらうけど、頑張ってね」
「何の演技?」
「車で話すよ」
影山を乗せて次の目的地に向かった。
あるマンションの近くを通り駐車場に停め影山を歩かせる。
「美優、設定に無理があるよ」
「大丈夫だって」
「だいたい影山が何でここまでくるのさ?」
「たまたまだよ、たまたま」
「たまたま来る所じゃないよ〜 気が重いなぁ」
「大丈夫だって、人間の脳は柔軟にできてるんだから」
「そんな、曖昧なのヤダな〜」
「はい、ついたよ、つべこべ言わずに準備する」
4階建てマンションの外にある非常階段、その近くの草むらに影山を寝かせた。
状況はこうだ、
たまたまマンションの非常階段を登っている最中、雨に濡れた所で足を滑らせ転び、
さらに運悪く階段から放り出されて落ちた事になっている。
あまりに無茶な設定だが、書き換える記憶がこんなのしか無かったらしい。
「でも、本当にあった事なんだよな」
「そうだよ、この記憶だって集めるの大変だったんだからね」何故か怒ってる。
「でも肝心の、雨ふってないよ……」
「大丈夫、通り雨ってことにしよう」
と言いながらペットボトルの水を僕達にふりかけた。
「やっぱり無理だよ」
「大丈夫、大丈夫」
道は濡れていないのに僕達だけ濡れてる。
「準備できたね、リモコンオフにするよ」
「うん、わかったよ」
「あとは頼むからね」
「え! 何いってんの? 美優もいるでしょ」
「私いたら変でしょ」
「なんで? 変じゃないよ」
「変だよ、濡れてないし」
「水かぶればいいじゃないか」
「無理無理、頑張りなよ男でしょ」
「男、関係ないよ」
「大丈夫、あっちで見とくから」
「そんなー」
「10。9。8……」
美優はカウントしながら離れていく
「ひどい、後でなんか奢らせてやる」
影山の目が閉じる。
(もう、初めていいのかな?)
「おい、キミ、大丈夫か? おい、返事できるか?」
寝ている影山を揺さぶった。