sweet confectionery-3
胸を押さえる。
今更気付いてしまった自分の気持ち。
どれくらいそうしていただろう。
トントン、と準備室のドアを静かにノックされる。
びくっと体が震える。
「戸田先生?いますか?」
いつもの穏やかな彼の声。
自分の気持ちに気付いてしまった今、室井にどんな顔をして会えばいいんだろう。
息を潜める。
だけど、息を潜めたところで鍵も無いこの部屋では無意味。
「戸田先生、いますよね?開けますよ?」
かちゃり、とドアの開く音がして彼がゆっくりと入って来る。
私は室井に背を向けたまま蹲る。
「なんですか?」
平静を装うように声を絞り出す。
彼を見ることなんてできない。
今の私はきっとひどい顔をしている。
ふぅ・・・と溜め息に似た彼の息が聞こえた。
「そんな態度されると、期待してしまいますよ?貴方がヤキモチを焼いてくれてるって。」
ゆっくりと一歩ずつ近づいてくる。
そして膝を折りそ・・・と抱きしめてきた。
びくり・・・と体が震える。
それを室井は拒絶、と取ったらしく
「僕の・・・期待外れでしたか。」
と切ない声。
ゆっくりと腕が離される。
「ちが・・・っ。」
思わず室井を振り返る。
「・・・どうして、そんな悲しい顔をしているんです?」
頬を両手で包まれた。
大きくて・・・暖かい。
「あれ?これ・・・。戸田先生も作ったんですね。」
ちょこん、と膝の上に乗ったリボンの付いた袋を見て聞いてくる。
「あ・・・。」
思わず手で袋を隠す。
「・・・誰かに、あげる予定でしたか?」
室井が顔を歪める。
誤解されているのが流石にわかる。
慌てて顔を横に振る。
もう、さっきの彼女からもらったかもしれないけど。
「これ・・・、もらってもらえませんか?」
おずおずと昨日作った焼き菓子を差し出す。
室井は少し驚いた後
「僕に・・・、ですか?」
自分を指差す。
私は、無言で頷いた。
「ありがとうございます。嬉しいです。」
「あの・・・さっきのお菓子は・・・?」
先ほどから気になっていた疑問を投げる。
「もらってないですよ。」
焼き菓子を受け取り、嬉しそうな室井は「なぜ、そんなことを聞くのか」と言わんばかりにきょとんとしている。
「どうして・・・?」
先ほどの彼女を好き・嫌い、付き合う・付き合わないは別にして。
あんなに、甘いもの好きなのに。
バレンタイン同様、受け取るのは自由。