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少女剣客琴音
【歴史物 官能小説】

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御前試合-2

そのとき玄武は審判役の月岡宗信になにやら小声で話し、月岡宗信は手を振って拒否する身振りをした。
「いかが致した、宗信。何か不都合でも生じたのか」
筑島候が審判役の宗信に問いかけると、玄武が物申した。
「恐れながらわが春日一刀流が剣術指南役に選ばれる前に願い出たき儀がございます。」
「何事じゃ、申してみよ」
「貴藩の家臣である多田監物殿のご息女多田琴音殿についてでございます」
「余の家臣の家族を名指しで訴えることがあるのか」
「多田琴音殿は半年ほど前にわが一刀流の同門である桜庭道場の精鋭数名と立会いを申し出て破っております。
このことは巷に広がり、一刀流は恐るるに足らずとまで言われる始末。
このまま剣術指南役に任じられましても藩士の方々は我が剣に従ってくれるでしょうか。
それ故是非指南役に任じられる前に殿の御前で多田琴音殿との立会いを希望するものでございます。」
「うむぅ、宗信、その方はこのことについて、思うところを述べてみよ」
「はは、恐れながら午前試合は剣術指南役を選ぶ為のもの。今の様な私的な理由での立会いは不向きかと思い、はねつけていたところでございます」
「なるほど、そちの言うことにも一理ある。だが一刀流の名誉のためと言いながら当藩の指南役を勤めるうえでそのことが支障になるというなら認めぬ訳ではない」
「ははあぁ、有難き幸せ」
ひれ伏す玄武に筑島候は手で制した。
「待て待て。話は終わっておらぬ。女子相手によもやその方が敗れるとは思ってもいないが、もし万が一その方が敗れたときのことを考えてみよ。
時間と手間をかけて行った選抜試合の末選ばれたその方が我が藩の女剣士に敗れたとあれば、指南役はどうなる?
その方はどう責任を取るのかその覚悟を聞かせてもらおう」
玄武は顔を上げた。
「お殿様の仰せになられた通りでございます。その責は我が死をもって償います。安き命なれどそれをもってお許し願いたいと存じ上げます」
「良く申した。それでは多田監物や、娘をここへ呼べ」
監物は畏まって屋敷に使いを出した。
四半刻もしないうちに琴音が身支度を整えて現れた。
白い着物に紺袴赤い襷をきりりと締めて、額に白い鉢巻を締めて髪を押さえている。
前髪から覗く眉尻は凛として、筑島候の前で片膝を着き頭を垂れる。
その美しさに筑島候を始め並み居る家臣や剣士たちも目を見張った。
やがて筑島候は口を開いた。
「その方を呼んだのは他でもない。ここに控えておる選抜試合の勝者の黒田玄武がこのままでは指南役を受けられないというのだ。
それは同じ一刀流の同門の桜庭道場の剣士を数名打ち負かしたその方が一刀流の評判を下げているとのことだ。
玄武と立ち合ってその方が負ければ無事指南役が決まる。
もしここで辞退するならそれでも良い。負けを認めたことになるが、所詮女子の身誰もその方を悪くは言わぬであろう。さていかが致すか」
問われて顔こそ上げずとも琴音は涼やかな声で答えた。
「お殿様に申しあげます。桜庭道場にて9名の道場生と対戦したのは道場主を通して正式に申し込んだ試合。
また勝敗いずれの場合でも遺恨を残さずと確約のもとで行われた正々堂々の試合でございます。
何故そうしたかは降りかかった火の粉を払ったとだけ申しておきましょう。
されどあるいはお耳を汚したことがあったやもしれませんが、藩の内外にここにおられる黒田玄武殿が回状を出したのでございます。
その内容は私の父と私めを名指しで書き記し、かの試合は卑怯な戦いであったと辱めたのです。
ですから幾ら試合を拒みたくても、我が父と私自身の名誉のために試合を受けざるをえません。」
しばらく沈黙があった。対戦は避けられないということが誰の頭にも理解できた。
「しかし……女子のそなたが幾ら当代無双といわれた女剣士であっても、黒田玄武に勝てるとはよもや思わぬ。
その方が負けたとき同じ藩内で遺恨を残すことになるが、どうする」
そのとき琴音は顔を上げた。揺るぎない決意を眼差しに込めて言った。
「黒田玄武殿は回状と一緒に私に果たし状を下さいました。
私を卑怯呼ばわりしましたが私が負けた折には自分を婿に迎えることを確約せよとも迫っております。
既に私は試合のこともそのこともただ一言『諾』と返答しております。
筑島候は琴音をじっと見つめた。
「もしやその方、負けた時は自害する積りだな……いやいやそうではない。
確かに玄武を婿に迎えれば遺恨は残らぬだろう。それで良い。だが……」
筑島候は目をかっと見開いて琴音を問い詰めた。
「もしその方が勝った場合は如何致す所存じゃ? まさか女子のその方を剣術指南役には任じる訳にはいかぬ。
その方が勝った場合はいなくなった指南役の責任をどう取る積りじゃ」
「そ……それは」
「さあ、どうする」
「もし私が勝ちました場合は、私より強い剣士を指南役として推挙致します」
「期限は?」
「期限は……5日下さいませ」
「駄目だ。3日だ。3日以内に連れて来るのだ。さもなくば多田家は取り潰す」
「は……はい仰せの通りに」
「それでは約定が整ったところで宗信、試合を進めよ」
「ははぁぁぁ、ただ今」

   


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