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少女剣客琴音
【歴史物 官能小説】

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松蔵稽古-3

そうやって数日が過ぎた。その間桑野松蔵は紹介された宿に泊まって多田の屋敷を通っていたのだ。
桑野松蔵は琴音に言った。
「もう少し続けたいのだがなにしろ時間がない。それでは木刀を持っての稽古に移る」
松蔵は今まで手で持っていた縄の端を木刀の先端に近いところに特殊な結び方でずれないように縛り付けた。それを2本作って両手に持たせた。
「今度は難しいぞ。縄を木刀に巻きつけて錘を上げよ。そして上まで行ったら縄を解く。その繰り返しだ」
「何故2本も木刀を使う。1本で十分ではないか」
「この剣は片手で持つことも想定しておる。だから片手でもこなせるようにするのだ」
早速琴音は言われた稽古を始めたが、これがなかなか思うようにならない。
手首の回転を使って木刀の先端近くに縄を絡めとろうとするのだが、すぐ解けてしまう。剣先近くに縄を巻こうとするとかなり力もいる。
錘を上まで上げるのは至難の業である。
だが琴音は負けず嫌いだから、何度失敗しても続けた。そして縄を木刀の中央に近い所に巻いて錘を上げた。
「最初はそれで良いが、なるべく剣先の方に縄を巻けるようになるまで稽古を続けるように」
松蔵はこういう稽古のときは安心して指図する。推手などの組み手のときはあまりやりたがらない。
琴音が負けず嫌いな為、気苦労ばかりするからである。
この稽古は結構長く行ったが、またある日松蔵が言った。
「今度は裏山で稽古をする。ついて来るように」
雑草が生い茂る草原に来ると、松蔵は腰までの高さに生えた草に木刀を向けた。
「よく見ておくように」
一瞬木刀を震わせたかと思うと草が根から抜けた。良く見ると木刀の刀身に草が巻きついている。
そして根からすっかり抜けていた。
「草に木刀を絡ませて上に上げる。つまりそうやって草を引っこ抜くということだ。
だが注意しないと土を頭から被ることになる。うまく行ったとしてそうだ。
うまく行かないと草を切ってしまう。それでは駄目だ」
だがいくらやっても草から木刀がすっと抜けるが、絡まってくれない。
琴音は1人で文句を言いながら何度も試した。そして時々癇癪を起こして真横に木刀を振り草を斬った。
それだけ難しい課題だった。だが一日の稽古の終わりには少しできるようになった。
翌日松蔵は草原に杭を打って、紐を張り区画を作った。
「1区画の草を全部抜いたら1日の稽古は終わる。では始めよ」
琴音はいっそのこと全部手で抜いてやろうかと思ったが、松蔵がじっと見張っているのでそれもできなかった。
「なんで1日分の区画がこんなに広いのだ。意地悪でやっているとしか思えぬ」
そういう言葉をわざと聞こえる大きさで言ったりするのだ。
だが草が抜けるようになるとそれが面白くなり、やがて文句を言わなくなった。
だが木刀に草を巻きつけ素早く引き抜くときに、腕に負担がかかる為疲労が溜まる。
「兄弟子はやはり師匠に比べて細かい配慮が足りぬ」
稽古が終わり宿に戻ろうとする松蔵に独り言のように琴音が呟く。
「琴音殿それはどういう意味か?」
「師匠なら稽古の後、痛む筋がどこか分かっていて揉み解してくれた。だが兄弟子に
そこまで望むのは無理かなと思う。言ってもわからないだろうから」
松蔵は顔色を変えて声を震わせた。
「琴音殿、実は拙者そのことも師匠に頼まれておる。しかれど、若い未婚の女人の体に触れること故、お嫌ではないかと遠慮していたのだ。もし、そちらの方で望むのなら幾らでも揉み解して差し上げるが、如何に」
琴音は頭を凛と立てて言い切った。
「嫌です、勿論。けれどもそれをしなければ私は黒田玄武に勝つことはできない。その場合はどうするのです。
それでどうやって私を助けるというのです?」
「できる限りのことをする積りだが、それでも間に合わない場合は拙者が御前試合に出て黒田玄武を打ち負かそうと思う」
琴音は目を見開いて松蔵を見据えた。
「何と浅はかな……、その前に私が玄武に承諾の返事を書いたとして、それで済むとお思いか。
御前試合で対戦できなくても、場所を変えて必ず試合しなければならないように追い込まれるのだ」
「それはそれで良いのではないですか」
「なんと仰った」
「琴音殿ほどの美形ならば、きっと黒田玄武は婿入りしてでも添い遂げたいと願うでしょう。
琴音殿も日ごろから言っておられるではないですか。婿になる人は自分より強い者が良いとそれこそ願ったり叶ったりと申すもの」
ピシリッと琴音の平手が松蔵の頬を打った。だが、松蔵は動揺せずに言った。
「玄武がどうしてもお嫌なら、同じ嫌でも拙者を婿にするという手もあります。
そうすれば婿を迎えることになったので、試合の儀はお断り申し上げると返事を書ける。
そして拙者が御前試合にて玄武を負かせば、もう琴音殿には手出しはできますまい。」
それを聞いて琴音は手を上げたが、松蔵の頬を打つのを止めて、険しい顔ながらも頬を赤らめて言った。
「それが本心なのですか? 初めからこの私を……」
「違うと言えば嘘になります。正直琴音殿は有能な剣士ですが、なにしろ時間はあまりない。密かにそちらの方も期待してはいました」
だが再び琴音の表情は凍りつき言い放った。
「ではその期待とかを一切拭い去ってください。今から私は玄武に返事を書きます。よく見ておいて下さいまし」
松蔵の足をとどめて琴音は返事を書いて広げて見せた。

  


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