それぞれの道1-2
「たかが車で2時間くらいだろ、遠距離なんて言わねえよ」
久留米さんはそう言って、仕事関係のファイルや本を次々に段ボールにつめていく。
まるで位置が決まっているかのように、次々に収まっていくソレを見ながら、あたしは口を尖らせた。
「遠いよ、車で2時間は。
もう休みの度にお泊まりできなくなるもん」
そう、あたしは久留米さんと付き合うようになってからは、毎週のようにここに泊まりにきていたのだ。
一本だった歯ブラシは二本に増え、男の部屋に不釣り合いなピンク色のカップが食器棚を飾り、久留米さんのサイズより一回り小さなパジャマがクローゼットにしまわれていく。
あたしがここに来る度に変わっていく風景が嬉しくてたまらなかった。
でも。
次第にこの部屋に増えていったあたしの痕跡は、もう全て無くなってしまった。
「まー、それは仕方ないだろ。ガソリン代もバカになんないんだから、自重しろ」
素っ気ない物言いに思いっきり膨れっ面を向けてやる。
「だったらこれからは久留米さんもうちに泊まりに来てよね。
そうすればメイもお母さんも喜ぶんだし」
あたしがそう言うと、久留米さんは苦笑いになってあたしから目を反らした。
それもそのはず、久留米さんがうちに来れば母が怒涛のもてなしで彼に接待し、
「うちはひとり娘だけど遠慮なくもらってやってね。あ、でも久留米玲香より宗川圭介の方がしっくりくるわね」
とか
「早く孫の顔が見たいわあ」
などと彼にプレッシャーを与えているのだ。