それぞれの道1-15
ふんわりと背中に温かさが伝わってきた。
同時に、彼の吐息が耳元をかすめたもんだから、思わず身体がビクッと身震いしてしまう。
視線を下に落とすと、お腹の前に大きな手があった。
「玲香、怒るなって」
背後から抱き締められて耳元で囁かれたら、たまったもんじゃない。
身体に電気が走ったあたしは、思わず小さな声をあげた。
こういう御機嫌の取り方ってズルい。
普段は素っ気なかったり、バカな真似してあたしを怒らせるクセに、こんなに甘いアメでまたあたしを釣って。
「ズルいよね、そうすればあたしの機嫌が直ると思ってるんでしょう?」
「あれ、違った?」
ほらやっぱり、確信犯だ。
ムカついたから、ギロッと睨みつけてやろうと、勢いよく後ろを振り返る。
「こんなんで機嫌直るわけな……」
そこにあるのは、歯を見せて笑う無邪気な久留米さん。
「…………」
……やっぱり、あたしはこの笑顔に弱い。
凄んだつもりの顔も、一気に脱力していく。
確信犯は抱き締めた腕にさらに力を込めて、
「じゃあ、どうすれば機嫌直る?」
と訊ねてきた。