哀玩少女 ☆-1
2012年8月25日 木曜日
某県内中央部を縦断する国道○号線、小雨の中を絶え間なく車が行きかっていく。
どこにでもあるありふれた風景。
その国道沿いにある大手コンビニエンスストア○○○・○○○○において物語は始まって行く。
「いらっしゃいませ」
自動ドアの開閉と共に、定型の挨拶が店内に響く。
その店内の片隅に、いつ誰がどのタイミングで落としたのか?
一枚のSDカードが商品陳列される什器の陰に落ちている。
何の変哲も無いSDカードは、数日前まである男の所有物で有り貴重なコレクションの一部であった。
幾人もがその前を通り過ぎていく。
サラリーマン、女子高生、子供を連れた母親に少年たち、そして老人。
16時02分
「おはようございます」
すでに夕方ではあるが、同僚バイトへの最初の挨拶をする。
「おはよう、ございまふ…… 」
先輩バイトは寝ぼけ眼のまま、気の抜けた挨拶でそれに応える。
(あいも変わらずの遅刻…… っか)
後輩バイトは苦々しく思いつつも、先輩バイトと入れ替わる事で退勤する。
レジ業務をこなしながら、来客が途絶えたタイミングで商品補充等の作業にあたる。
型にはまった日常が始まって行く。
(んっ、あれは? 何か落ちている?)
何気に拾い上げ手に取ると、ほぼ同時に自動ドアが開く音がする。
「いらっしゃいませ」
反射的に落ちていたSDカードを胸ポケットに入れるとレジ会計に入る。
来客数が増え始めピークタイムが訪れる。
時間は瞬く間に過ぎ去りバイトを終えると、怠い身体を引きずるよう帰宅する。
築30年以上の単身向きアパートのドアを開け、バイト先で買ったコンビニ弁当をレンジで温める。
同時にノートパソコンを起動し、アダルトサイトの閲覧を始める。
青年は俗に言う「ワーキングプア」で、車も彼女も居なければ取り立てて趣味も無く、休日を共に過ごす友人すら居ない。
県内の高校卒業後、こんな生活をすでに3年も送っている。
正確には高校卒業後就職はしたが半年で退職してしまい、半年ほどブラブラしてから現在の生活に至っている。
三歳の時に父親を交通事故で無くすと、以来不遇をかこっていると本人は思っている。
「そう言えば、アレ持って帰って来ちゃったなぁ…… まぁ、いいか」
ふと、拾ったSDカードを思い出す。
興味本位から拾ったSDカードをノートパソコンのスロットに挿入してみる。
ファイルが開かれていく。
人生にはいくつかの選択肢があり、同時に同数のIF(もしも)が存在する。
もしもSDカードを拾わなければ……
もしもSDカードのファイルを開かなければ……
ファイルは三つに分かれていた。
初めのファイルを開くと見慣れぬ風景や建物の画像、中には駅や高校や個人宅の様な物が合計20枚前後。
特に興味は引かないものばかりだが、不思議と人物はひとりも写っておらず資料的物なのかと思われる。
次いで二つ目のファイルを開くと、こちらは一転してかなり怪しさが伝わって来る。
おそらく同一人物と思われる少女を、遠くから隠し撮りする様な構図の画像ばかり30枚近くある。
少女の服装は制服姿で、見覚えの無い制服から中学生とも高校生とも取れる微妙な年齢に見て取れた。
何れにしても、如何わしい雰囲気が十分感じ取れる物であった。
「もしかしてストーカー? 変な物拾っちゃたなぁ〜」
ため息が漏れる。
それでも遠目の画像ながら、少女の可愛らさが伝わってくる。
いささか肩透かしを食らった感はあるが、最後のファイルを開く事にする。
先程の少女が横たわる画像から始まり、一枚ずつ開き始める指先は僅かに震え始めていた。
腰丈まである黒髪に大きな瞳が印象的な少女は、パソコンモニターからも十分魅力が伝わって来る。
着用している白と濃紺の制服は、後に知った事だが※中間服と呼ばれるものらしい。
しかし少女が写り込む背景は容易に事件性を窺わせ、これから映し出される数々の画像がそれを確信へと変えていく事になる。
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※中間服・・・夏服タイプのセーラー服だが上着は長袖の制服