冬の到来-2
「さあ、これで美羽がいつ来ても大丈夫だな」
そう思うと同時に、呼鈴が鳴る事なく部屋のドアの鍵が開き、ドアが開いて、
「お兄ちゃん、私のこたつ――」
準備万端の部屋を見て、美羽は言葉を止めてにんまりと頬を弛めた後に、玄関にブーツを脱ぎ捨て、僕にコートを渡すと、 すっぽりとこたつの中に潜りこんで、
「はぁぁ〜、冬はやっぱりこれだねぇぇ〜」
と、うつ伏せになり、クッションを枕にして和やかな声をあげた。
「飲み物、コーヒーでいいよな?」
僕の問いかけに美羽は、
「コーヒーやだ。今日は甘〜いココアな気分」
スマホに指を滑らせながら返事をした。
「ココアは…ないよ」
「じゃ、買ってきて」
「え〜…?」
面倒だなと苦笑いした僕を横目でジロリと威嚇して、
「ついでにお昼ご飯と、デザートにシュークリームも」
まるで小さな子供のように頬を膨らませて、些か乱暴にスマホにか細い指を打ち付けた。
「シュークリーム…ね…了解した」
なるほど。シュークリームを欲しがるって事は、何かあったなと小さく息をつき、
「わかった。お前の好きな生クリームがいっぱい入ったやつな」
僕は、美羽のコートをハンガーにかけて、ダウンを羽織り、
「いってきます」
スマホをベッドに放り投げこたつに籠城する美羽に一言告げて部屋を出た。
昔から美羽は悲しい事があるとシュークリームを欲しがる癖がある。
友達とケンカした時や、彼氏と別れた時なんかは必ずと言っていいほど僕にシュークリームを買えと使いっ走りさせるのが僕ら兄妹のやり取りの定番になっていたりする。
コンビニまでの距離は自転車で片道五、六分。 道中に美羽に何があったかを考えてみたら、意外と答えは簡単に見つかった。
平日学校を終えてならばわかるけど、土日は彼氏と会っているから忙しいはず。だから僕のアパートに来るなんてかなり不自然だと思ったからだ。
「間違いない。彼氏とケンカしたか、別れたか…」 やれやれと思いながらも、どこか安堵してる内側の僕を感じて (勘弁してくれ…)と苦笑いしてしまった。
コンビニに着き、美羽の好きなカルボナーラと、僕の分の唐揚げ弁当、それから粉末ココアに牛乳。そして、デザ ートのシュークリームをかごに入れる為にショーケースに 手を伸ばした。
「二つ…、いや三つだな」
美羽と僕とひとつずつと言っても、きっとあいつは僕の分まで奪って食べる事間違いなし。
「あんな華奢な体のどこにこんなものが二つも三つも入るんだか…」
そう笑って思いつつ、シュークリームを三つかごに入れてレジへと歩いた。
会計を済ませ、店を出て、少し急いで自転車をこぎアパートへ戻ると、美羽はこたつの中でぐっすりと眠っていた。