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BLACK or WHITE?
【幼馴染 官能小説】

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−2−-1

「お、お姉ちゃん、おねーちゃぁーん?ご飯食べないの??」
「……いらない」
「でも……」
「いらないってば」
「そう……」
ドアの向こうから心配そうに声を掛ける杏子も、姿さえ見せない姉を諦めて階段を下りていく。
「お母さん…お姉ちゃん、ご飯いらないって…」
「今まで何があってもご飯だけは抜かなかったのに、どうしちゃったのかしらねー」
「うん」
2人の若干ずれた心配をよそに、椎奈はベッドの上に突っ伏し、声を殺して泣き暮れる。
一本で負けた。まさか、あんなにあっさりと負けてしまうなんて。今までの彼女の自負は、完膚なきまでに打ちのめされた。
目を瞑れば、否が応にも目蓋の裏に映し出される、あの光景。
立ち上がった孝太郎が、自分を見下す。勝ち誇った様子など微塵も出さず、まるで至極当然の結果でもあるかのように、畳の上に無様に横たわった自分を彼はちらりと一瞥すると、ただ静かに立ち上がって、深く礼をした。
彼の眼差しを思い出しただけでも、腸が煮えくり返るかのような怒りと悔しさがこみ上げて、また涙が溢れてくる。自分の力量不足と不甲斐無さに苛々する。
杏子が心配して、頻繁に様子を窺いに来ているが、こんな情けない姿を可愛い妹に見せるわけにはいかない。強くて頼りがいのある姉だというイメージを損なうのが怖くて、ぎり、と奥歯を食いしばり、部屋の外に嗚咽が漏れるのだけは必死に堪えた。


―――しっかりと閉ざされたカーテン。その僅かな隙間からすらも、光は全く見えない。
まるで、彼と彼女の絶対的な踏み込めない境界線のようだ。暫く隣の家の窓を見つめていた孝太郎も、カーテンを閉めて、部屋のベッドの上に腰掛ける。
正直、彼には、彼女ほど部長になる事への執着心はなかった。わざと負けるという手もあった。だが、椎奈は手加減されるのを嫌うだろう。それに、相手に失礼でもある。これは全力で戦った結果だ。
孝太郎が柔道を始めたきっかけは、椎奈だった。彼女が町内で開かれていた柔道教室に先に通い始め、彼女に付き添って見学していた彼も興味を持ち、共に道場に通うことになった。椎奈は幼い頃から強い男に憧れていたから、彼女に認められるような男になりたかった。
いつも彼女の頼もしい背中を追い続けて、置いていかれないように必死だったのに、いつ追い越してしまったのだろう。
今日、試合で立ち合った彼女の体の軽さを思い出す。体格だって、幼い頃は彼女の方が自分よりもだいぶ良かったはずなのに、いつの間に彼女はあんなに華奢になってしまったのか。……違う、自分が逞しくなったのだ。
いつから彼女の背中がとても小さく見えるようになって、護りたいと思うようになったのだろう。
悔しさや悲しさの色を滲ませた彼女の瞳に射抜かれて、そんな眼差しを向けられても尚愛しく感じた。
やはり友達のままでなんて、この気持ちを終わらせられるはずがない。どうすれば、この思いが報われる?じりじりと胸が焦がれる。もどかしくてたまらない。こうして燻っている今だって、彼女は隣に……こんなに近い距離にいるのに。
彼は切なげに目を伏せ、やるせない気持ちで唇を噛んだ。




朝起きると、やはり少し目が赤く腫れている。
(情けねーツラ…)
自分の顔を見て、椎奈は力なく溜息を吐く。
早く気持ちを切り替えて、いつもの自分に戻らなければ。みんな気にして、心配を掛けてしまう。憐憫の目を向けられるのだけは耐えられない。いつでも明るく、強くあるのが自分のあるべき、そして求められている姿なのだから。弱みを見せることは自尊心が許せない。
「おはよー!」
元気良く、椎奈は挨拶をしながら、リビングの戸を開いた。
「お姉ちゃん、昨日はどうしたの?」
「いやぁ、生理痛がものすごくてしんどかっただけ」
照れたように頭を掻いて、苦笑いを浮かべてみせる。
「…そっか」
そんなはずはないと思いながらも、杏子は深く追求はしなかった。杏子も、特に妹の前では頼りがいのある存在でありたいと誓っている姉の事をよく理解していた。
「朝ご飯、食べる?」
「うん、もちろん!」
椎奈は愛らしい八重歯をちらりと口元から零して、満面の笑顔を見せる。
(…よし、いつも通り)
もう、これで元通りの自分だ。


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