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秘密
【女性向け 官能小説】

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秘密-1

1、告白
 よく、夫婦の間に秘密があってはいけないと言われますが、そんなことはありません。ささやかな秘密を死ぬまで守ることが、夫婦円満の秘訣ということもあるのです。
 ご参考までに、そんなある夫婦のお話をしましょう。これは決して私たち夫婦のことではありませんので、誤解の無い様にお願を申しておきます。

 「耕司さん、鈴木さんとこにいる愛子さんを知ってるでしょう」
母が訊ねた。
「ああ、九州からお手伝いに来ている、親戚の娘さんとか言う」
「そう、お前あの子どう思う」
「どう思うって、僕の嫁さんにって話かい」

大学を出たばかりの僕に、見合いの話である。

「そうなんだけど、実はあの子に実家から結婚の話が来てね」
「それでどうして僕が」
「お父さんが悪いのよ。前にね、お父さんが冗談に、うちの耕司の嫁さんにならないかって言ったらしいのよ。
 あの子お前に気があったらしくって、喜んじゃったらしいんだけど、その後話が立ち消えになって、がっかりしていたらしいのね。
 それで、今度実家から結婚話が持ち上がったので、鈴木のおばさんに、念のためもう一度お前の気持ちを聞いてくれないかって打ち明けたって事なのよ」
「そんな事、急に言われたって困るよ。いいも悪いも、全然そんな話聞いてないもん」
「そうだよね。あの子の気持ちを考えると可哀相だけど、お前にその気が無くっちゃ、しょうがないわね。
 先方さんも念のために聞いて欲しいって言っていただけだから、じゃあ、お断りしておくよ」
「いい加減な返事をして、付き合った挙げ句、あっちも駄目、こっちも駄目じゃ、却って気の毒だものね」
 何度か顔を合わせたことのある愛子の顔を思い浮かべる。ぽっちゃりタイプの、中肉中背、温和しそうな女の子だった。あの子が、自分に想いを寄せていたかと思うと、いささか不憫に思えた。

2、日比谷公園
 愛子と偶然遭ったのは、会社帰りの都電の中だった。お互いに顔が合うと、一瞬何とも言えない、雰囲気が流れた。
「あの、この前は済みませんでした。何も聞いてなかったもので、オヤジも一言いっといてくれたらいいのに、なんせ、いい加減なんだから。ごめんなさいね」
「いいえ、私の方こそご迷惑をおかけして、済みませんでした。私って、思い込みが強い質なんです。それで、若しかしてって、・・後で後悔するの嫌ですから」
「お幸せになって下さい」
「ええ、有り難うございます。じき九州に帰ります。ご迷惑ついでに、一度夕食ごいっしょして頂けませんか。もう東京に出てくることも無いと思うので」
「そうですね。僕は結構ですよ」

 銀座のレストランで、愛子と取り止めのない話をして、食事が済んだ。今まで、若い女性とゆっくり話をしたことが無かったので、愛子との会話はそれなりに楽しかった。
 ワインを飲んだ所為か、胸の内にピンクの霞が漂う。
 (もっと早く分かっていたら、若しかしてこの子は、僕の嫁さんになっていたかも知れないなあ)

 「少し歩いて頂けませんか」
愛子が、僕の腕を取った。どちらからともなく、足は自然と日比谷公園に向かった。
 ベンチはあらかた、先着のアベックに占領されている。中ほどまで進むと、半分片側の空いたベンチが見つかる。
 腰を下ろすと、愛子は頬を寄せてきた。自然に、唇が合わさった。
「僕は君とは、結婚する積もりはないんだ」
念のためにはっきりしておいた方がいいと思った。
「私を、殺して下さい」
愛子が、首を差し出した。目を閉じて、白い首が長く見えた。
「君を殺せば、僕が人殺しになってしまう。君の気持ちは有り難いけれど、今の僕には未だ誰とも、結婚する気はないんだよ」
「私、今夜は帰りません」
 口とは裏腹に、指先はさっきから愛子の胸元の、ブラウスの上から乳房をまさぐっていた。男根が、ズボンの下で、キリキリと軋んでいる。
(据膳食わぬは男の恥か)
こんな都合のいい言葉が、頭にひらめく。
 結局、タクシーを飛ばすと、神宮外苑のラブホテルに直行した。



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