いい女でいさせて-7
陽介にとってあたしはセフレ以外の何者でもないのに、なんであたしは陽介が自分のものになるって思えたんだろう。
割り切った関係を始めようと言ったのはあたしで、陽介はそれに乗っかっただけなのに、言えない想いを察して欲しいなんて、あたしはなんて図々しいのだろう。
勇気を出せずにぬるま湯に浸かって、陽介がそこから出ようとしているのを繋ぎ止めて。
歴代カノジョの誰よりも陽介と過ごした時間が長いあたしは、きっと感覚が麻痺していたんだ。
自分は特別な存在だ、って。
次第に可笑しさが堪えきれなくなったあたしは、肩を揺らし、息を漏らし、拳を作って口元にあてながらクスクス笑い出す。
そんなあたしの異様な様子に気付いたのか、陽介は煙草を消してからゆっくりあたしを見上げた。
「くるみ……?」
不安そうな声の陽介に、笑いを堪えられないあたし。
そんな心配そうな顔をする陽介を尻目に、ついに我慢が出来なくなったあたしは、大きな声で笑い出してしまった。
ホント、あたしはバカだ。
あたしはただの「セフレ」だったのに。
それから目を背けて、いいように身体だけの関係を続けて、陽介に本気で好きな娘が出来た途端に焦ってカノジョになりたいだなんて。
こんなバカで勝手な自分が、涙が出るほど可笑しかった。
一頻り笑っているあたしを、陽介はポカンと間抜けに口を開けて見ている。
口を半開きにしているけど、陽介はやっぱりいい男で、やっぱり大好きで。
だけど、いくら想っていたって、想いを伝えた所で、どうにもならないことがあるんだ。
陽介はあたしじゃなく、恵ちゃんを好きなのだから。
お腹を抱えて笑う反面、目の奥が痛むのを必死で堪えていた。
「どうしたんだよ、くるみ」
陽介が心配して、あたしの肩に手を伸ばそうとするけど、それを思いっきり叩き落とした。
どうせ叶わない想いなら、誰のものにもならない女を演じさせて。
――自己満足かもしれないけど、いい女でいさせて。
驚いて固まる陽介にあたしは精一杯冷たい目をして、睨み付けながら、口を開いた。
「馴れ馴れしく触んないでよ」