う-4
金子さんは名刺の裏に携帯の番号を書いてすみれに渡した。
「来週の金曜日、19時に1つ隣の駅のカサブランカって飲み屋で。
予約とかはこっちで手配する。人数は3:3でいい?」
「はい」
そういうとかすかな油のにおいを残して店を出て行った。
「すみれ、本当にあの人なの?」
「たぶん。山梨だって今思い出した。
開発にもあんなカッコいい人がいたんだね〜」
「匂いは油っぽかったけどね」
「しょうがないじゃん。工場と隣接されてる研究室にいるんだから」
「すみれ、いつも男に手厳しいのに、金子さんには甘いね」
すみれはいつも男の評価には手厳しい。
「あんだけ顔がいいのに開発ってもったいなくない?」
私の言葉は聞いてないらしい。
「広報に行けばいいのに」
「広報はすみれが思ってるほど華やかじゃありません」
割と地道な作業が多い。
それなのにほんの一部の華やかな仕事が私たちの広報部を
華やかな部だと勘違いさせる。
「あと一人の女子はすみれが用意してよ」
「任せといて!」
金子さんは山梨か。
週に1回の横浜出社が求められているなんて
思っている以上に優秀な開発者なのかも。
でも私はないな。
山梨の人と恋愛するなんてちょっと考えられない。
金子さんの連れてくる
他の二人に期待しよう。
私はすみれと何杯目か数えることも忘れたビールのジョッキを
軽くカチンと合わせた。