くのいちさんが狂いました-5
精神的にかなり参ってしまいましたが、彼女のくのいちとしての誇りが立ち止まることを許しませんでした。次こそ、次の男こそ、この艶かしく瑞々しく、そして気高い肢体で屈服させてみせる。
ところが潜入する道を間違えてしまい、城下町に出てしまいました。急いで戻ろうとしたその時、いきなり上から水が降ってきました。
「冷たいっ?!」
「あははははっ、やーい引っ掛かったー。鬼ごっこに屋根に上がっちゃいけないっていう決まりなんか無いもんねー……ん?」
民家の屋根の上に水をかけた犯人がいました。どうやら子供の様です。自分の失敗で迷い込んだとはいえ、大事な任務を邪魔されるわけにはいきません。くのいちはずぶ濡れで重くなってしまった装束を脱ぎ捨てました。
「坊や、いけない子ね。知らない人に水をかけたかけたらいけないって躾られなかったのかしら?」
「……………………………………」
男の子は、さらしと褌だけの、押さえつけていた装束から解放された肉感的なくのいちを見下ろしています。まだ幼くはありましたが、すでに男と女の体の違いくらいは認識していそうな年頃です。
くのいちは色仕掛けで男の子を失神させようとしていました。その仕組みは本人もよく分かっていませんが、狙った相手を仕損じた事はつい最近までは無かったので、気を失うだろうと確信していました。
「あっ、いた!」
「やべぇ見付かった、逃げなきゃ!」
しかしその男の子はまったく意識することもなく、くのいちの近くに隠れていた相手を見付けました。屋根から降りて逃げていくのを追いかけます。
「ちょっと待ちなさい!! あんた、こんな魅力的なお姉さんを見たいと思わないの?!」
「邪魔しないでくれよおばちゃん! あいつ捕まえたら手握ってもいいって約束なんだよ!」
遠ざかっていく二人の男の子の背中を呆然と見つめながら、くのいちはすっかり感情が心からこぼれ落ちていました。それを本人が気づくことはありません。それすら、考えられなくなっていたからです。
ついに子供にすらそっぽを向かれてしまうなんて………………