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くのいちさんが狂いました
【コメディ その他小説】

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くのいちさんが狂いました-2






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 戦国時代の忍者の主な仕事は、情報収集です。しかし現代の様にパソコンやスマートフォンで手軽に知りたい事を検索できる訳ではなく、時には敵方の拠点に潜入しなければなりませんでした。まさに、命がけの任務です。
 捕まってしまえば相手に自国の情報を自白させられるための苛烈な拷問が待っていたので、万が一そうなれば一貫の終わりでした。忍者は情報の漏洩を防ぐ事も重要な任務であり、仲間を救出する事は禁じられています。捕らえられた忍者及びくのいちの末路は、自ら果てるしかありませんでした。
 彼女は、そんな強くとも儚い忍者軍団の一員だったのです。しかし単なる歯車ではなく、身体能力と頭脳、そのどちらも他の忍者より優れていました。更にそのくのいちは近くを通った男が三度は見直す程の美貌を備えており、そしていつも身に付けている忍装束を脱げば……まあ、これは敢えて割愛しておきます。
 とにかく、どれを取っても常人より優れていたので、くのいちは男を手玉に取るなど容易いのだと軽んじていました。実際、彼女に迫られて断ることができた男などいなかったのです。

 そんなある日、くのいちは敵方の城に潜入しました。いつも通り天井裏を匍匐前進で進んでいると、不意に体がぐにゃりと沈んでいくなんとも居心地の悪い感触がありました。もしや、と思い咄嗟に転がって回避しようとしましたが、不幸にも腐った天井が重みで抜け落ちる方が早かったのです。
 打ち付けたひじや膝を襲う激痛に悶絶している間に、敵に囲まれてしまいました。ちゃんと真面目に訓練受けておけば良かったと後悔してもすでに後の祭りでした。屈強な男達に押さえ付けられ、薬を染み込ませた布を口に当てられ朦朧とする意識の中で、くのいちは自身の愚かさを呪うのでした。


 目を覚ますと、そこは冷たくて固い床の牢屋だったのです。くのいちはこれから自身に待ち受ける運命を思い、涙ぐむしかありませんでした。果たしてどれほど酷い拷問を受けるのか…………




 しかし、すぐに体のどの部分も拘束されていない事に気付いたのです。安心するよりも、なぜ捕縛したくのいちを牢屋の中とはいえ自由にしておくのか、と首を傾げていたら、声をかけられました。


「お目覚めかね、くのいち殿」


 牢屋の前に城主が立っていました。くのいちは彼の薄気味悪い笑顔を見て、そうか、こちらが意識を取り戻してから拘束するつもりだったのか、と理解したのです。丸々と肥っているせいでその目は肉に押し潰されていましたが、粘っこくて鋭い嫌な輝きが宿っているのがはっきりと分かりました。

「あんた、いかにもな面(ツラ)してるわね。これから私を拷問にかけるつもりでしょうけど、無駄よ。鞭で打たれても、針を刺されても石を膝に乗せられても、水の中に沈められても、絶対に自白なんかしないわ」
「ほほう……なかなか美しいな。それに、意志の強そうな瞳だね。これは簡単に口を割らせる事は出来なさそうだねぇ」

 ふと、くのいちは異変に気付きました。城主の隣に誰かがいます。しかし今はそんな事より、とにかく情報を漏らさない方が重要でした。何があっても屈してなるものか、と奥歯を食い縛り、自身を奮い立たせます。
 城主はフン、と鼻を鳴らし、隣にいた男に顎をしゃくって何かを指示しました。無言のまま、男は持っていた鍵で牢屋の扉を開けました。そして自分を縛り上げようと、入ってくるつもりだろう……


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