病院で-4
誰かに揺り起こされて目を開けると、3人のあの子達がいた。
カオルちゃん、ナオミちゃん、セリナちゃんだ。
「ああ、あんたたちか? ここまで来たんかいな。もう勘弁してくれんか」
ワイは弱弱しくそう言ったんや。実際元気な声など出えへんやん。
「おじさん、あんたが……」
カオルちゃんがワイを見つめるとゆっくり言った。
「……遠坂さんだったんですね」
「えっ? なんのことや? 誰やって」
「遠坂瑠衣さんです。私たち3人を3年間勇気付けて励まし続け経済面でも援助してくれた恩人です」
「そんな立派な人がワイみたいな男である訳がないやないか。ワイはあんたらも知ってる通りクズや。
そんなワイと一緒にしたら、その人に失礼やないか」
「じゃあ、この手紙はなんです? この虹色の封筒は私たちが遠坂さんに出した手紙です。
開封してますね。どうしておじさんが読んでいるんですか?」
ワイはここでとうとうばれてしまったかという顔をした。
「実は……遠坂瑠衣さんに言われて、ワイが連絡係になってるんや」
ワイは咄嗟に浮かんだ嘘をついた。
「ワイはなあ、遠坂瑠衣さんとはたまたまネットで知り合ったんや。
とても素敵な人でなあ、わいも初めのうちは猫をかぶって付き合っていたんやが、そのうち嘘をつくのが嫌になってなあ。
正直なワイの姿を教えて、色々人生相談までするようになったんや。
それであんたたちのことを相談したらえらく叱られてなあ。
あんたたちを助けるように言われたのや。その責任がワイにはあるって言うてなあ。
実は彼女は外国に住んでいてなあ。日本にいないのや。
だからメールで文章を受け取ったらそれをワイの字で書き写してあんたたちの所に手紙を出すようにしてたんや。
それは全部遠坂さんの指示や。お金もワイの口座に振り込んで来たのをワイが送っていたんや。
ワイはただ遠坂さんの言う通りにすれば、少しでもあんたたちにしたことの何分の一でも償いになるって言われてしてただけや。
あんたたちの言葉は全部ワイがメールで打ち直して彼女の所に送ったし、DVDや写真もデーターで送っているから、ワイはほんの仲介役だけなんや。
嘘やない。だからワイは遠坂さんやないのや」
ワイはそこまで言うと、一息ついて深呼吸した。咄嗟とはいえ、辻褄のあった嘘だと思った。
「そうだったんですか? それであの噴水の場所にいたんですね」
「そ……そうや。あんたたちの様子を彼女に報告しなきゃいけないからな」
「それなのに、私たちに見つかって……酷い目に合わせてしまいました」
「い……いや、実際先にひどいことをしたのはワイの方だから、お……おあいこや」
「私たちのことを警察に言わなかったのも遠坂さんの指示ですか?」
「そ……そうや。真っ先に彼女と連絡とったらそうするように言われたんや」
するとワイの言葉を聞いて、それまで黙っていた他の2人にカオルちゃんは「どう思う?」と聞いたんや。
「どう思うって……」ナオミちゃんが言った。
「このおじさんがあんなに良いことしてくれる筈がないし、その通りだと思うよ」
するとセリナちゃんも言ったんや。
「そうだよ。遠坂さんが指示しなきゃ、あんな手紙を書ける筈がないよ。だってこのおじさんはお金で私たちのことを……」
「勘弁や。 もうそのことは言わんといてぇな。悪かったと思ってる。許してほしいんや。」
ワイは寝たままで手を合わせ頭をコックンコックン下げた。
「わかったよ。おじさん、忘れてあげるから遠坂さんのメアド教えてくれない?」
「そ……それはあかんのや。本人はそういうことを隠れて行うことが好きな気まぐれな金持ちやから。教えたらワイは縁を切られるし、多分メアドを変えてしまうと思うんや」
「そうなの? それじゃあ、今後も遠坂さんとの連絡を宜しくお願いします」
そう言うと妙に素直になってカオルちゃんは他の2人を促して部屋を出て行ったんや。
ワイはほっとして、疲れがどっと出たんや。ああ、うまく誤魔化せた。
そう思うとまた眠くなって……。