後悔-3
「駄目だ。あんたをここ1年以上ずっと観察しとったが、怪しいところは全くないんだ」
「おおこわっ。ワイを見張っとったんかいな。で、何がわかったんや」
「何も。商店街に来ても余程安い物じゃないと買おうとしないし、娯楽と言ってもレンタルDVDくらいだが、旧作の安い作品しか借りようとしない。
その汚いスニーカーは3年前から履き続けて、何度も洗っているから元の色がすっかり剥げて白になってるし。
食事内容も質素そのものだ。魚では鰯は買うけれど刺身は買わない。肉は牛や肩ロースは買わない。豚こま専門だ。しかも割引値段のときしか買わない。
車はもう12年も乗っているポンコツだ。
そして滅多に出かけない。俺が数えても今日で3回目だ。坂井さん、いったいどこに行ってたんだ?」
ワイは弱ったね。下手なこと言うとぼろが出るからここは誤魔化すしかない。
ワイは小指を立てて見せた。
「これのとこ……とか?」
「その格好でか? まあ、良い。映画でも見に行ったんだろう。それとうまいものでも外食したりとか……」
「いやいや……やっぱりこれだよ」
「まあ、なんでも良い。俺は今その3人説に疑問を持っているんだ。
3人説だとあんたが一番の有力候補だが、それはありえない。
とすると、どこかの商店主が細工をして余った券の数を揃えて辻褄を合わせたということになる」
「なんや、それ分かりづらいなあ。ワイが犯人だと言うほうが分かりやすいんとちゃうか?」
「たとえばどこか別の場所で宝くじを買っておいて、それを客に渡し……自分は支給された券を一枚取る。それがたまたま当たっていたという偶然を考えたんだ」
「なんでそんなややこしいことするんや。ところでロクさん、あんたそんなに熱心に当たりクジの持ち主捜してどうする積りや?」
「どうする積りかって? だいたい当たったくせに隠しているのはけち臭いじゃないか? だから推理して見つけたいって感じだよ」
「見つけてどうするんや? 分け前もらうんか?」
「いや、そういう奴は分け前なんか寄越す筈がないだろう。うーん、他の者にばらされたくなかったら100万寄越せっていうかも」
「こわっ……ロクさんってそんな闇の部分があったんかいな」
「冗談だよ。だが心の底に妬みの気持ちがあるのは否定しないな」
「そりゃあ、みんな同じや。だけど関わらない方が心の平和になるんやないか?」
「まあ、そうだ。それじゃあな、坂井さん」
ワイはロクさんの後姿を見送って、何か寂しくなったよ。
人間ってこうもお金に執着するもんなんやなあってな。