言えなかった「好き」-6
スッとあたしの頬から手を離した陽介は、
「何だ、こんな夜遅くに宅配便かなんかかな」
と、眉を潜めながら掛け時計を見上げた。
9時を少し過ぎた時計。カチカチ鳴る秒針よりも早くあたしの心臓が脈を打つ。
9時を過ぎてから宅配便が来るなんて考えられない。
いや、あるかもしれないけれど、こんな夜遅くの配達なら、まず一本電話を入れるはず。
それに、ざわつくあたしの胸が、「訪問者は宅配業者なんかじゃない」と警報を鳴らしていた。
「……ったく、めんどくせえなあ」
小さなため息と共に立ち上がろうとする陽介を、身体が勝手に引き止めた。
「……行かないで!」
「どうした?」
キョトンとこちらの顔を覗き込まれ、不意に冷や汗が背中を流れる。
「あ、あの……夜遅いし、変な人とかなら怖いから……出ない方が……いいかも……」
嘘。ドアの向こうがホントは誰なのかわかっている。
だからこそ、陽介を行かせたくない。
今、“あの娘”に会わせたら、きっと取り返しのつかないことになる。
彼の腕を掴んでいた手にさらに力を込めるけど、陽介は簡単にそれをすり抜けてアハハと笑った。
「じゃあ、俺のピンチには援護よろしく」
陽介はあたしの不安なんて全く気にも留めずに、腰を上げるとインターホン越しに「はい」と愛想のない返事だけをして、ペタペタと、玄関に向かって歩いていく。
その小さくなっていく姿が涙でぼやけていき、あたしはそのまま髪の毛をクシャリと握り締めたまま、キツく目を閉じた。
ギリッと鳴る奥歯。ポツリと落ちた一滴の涙。
陽介、恵ちゃんのとこになんか行かないで――。
しかし、無情にもガチャリと開けられたドアの音に続いて、
「……メグ」
と、戸惑いが混ざったような声が聞こえてきた。