言えなかった「好き」-5
乾いたその手は、指が長くて綺麗な手。
この手で抱かれるのが大好きでたまらなかった。
カノジョがいても、他の女と遊んでいても、理解のある女を演じていたあたしは、この手を自分だけのものにしたいと言えずにいたっけ。
でも、陽介が一人の女の子に本気になっていた事実を知ったら、もうどんな卑怯な真似をしてでも手に入れなきゃという焦りばかりが募って。
恵ちゃんと別れた今、陽介の心に割り込むチャンスがやっと訪れたのだ。
だから、あたしは陽介にずっと言えなかった「好き」を伝えなきゃいけない。
……セフレなんて辛い関係に終止符を打つために。
身体だけじゃなく、心も欲しいから。
「陽介……」
導いたのはあたしだけど、一旦触れた手は優しくあたしの頬を撫でてくれる。
あたしを見つめる陽介の表情は、寂しそうで胸が痛くなる。
そう言えば、エッチしてる時も陽介はこんな表情してた時があったっけ。
意地悪な抱き方をされることはしょっちゅうで、その度自分はセフレだから、こんな軽い扱いしかされないんだって、自己嫌悪に陥るけど、たまにこんな寂しそうな表情をされると愛しさが込み上げて――結果、離れられなくなるんだ。
離れられないなら、独り占めしたい。
陽介、あたしね、ホントはセフレなんかじゃなくて、カノジョになりたかったんだよ。
心の中でそう呟いてから、生唾を飲み込みキュッと口を結ぶ。
覚悟を決めたあたしの心の内を感じ取ったのか、撫でていた陽介の手がピタリと動きを止めた。
黙って見つめる陽介の瞳に、見慣れた自分の顔が映る。
陽介の瞳の中のあたしが口を開くと同時に、あたしはスウッと息を吸い込んだ、その時。
ピンポーン、と静かな部屋に不快な音が鳴り響いた。