言えなかった「好き」-4
片膝を立てて座り込んでる陽介の隣に、意を決して腰掛ける。
陽介の顔が近くなって、さらに心拍数が上がる。
何度も身体を重ねてきたくせに、「好き」って言葉がなかなか言い出せない。
それほどあたしにとって、その言葉はあたしの想い全てが込められているわけで、陽介があたしに軽々しく言う「好き」とは重みが違うのだ。
そんなあたしの胸の内なんて知らない彼は、ぼんやり煙草の煙を吐き出すだけ。
何も話さない二人だけの空間で、バスルームでお湯をためている音だけがやけに大きく聞こえた。
どれぐらい時間が経ったのか、煙草を吸い終えた陽介は、吸殻いっぱいの灰皿に煙草を押し当てて火を消すと、あたしを見ないまま、
「……さっきは悪かったな」
と、呟いた。
目を丸くして彼を見ると、バツが悪そうに耳の後ろをガシガシ掻く姿。
そして、ゆっくりこちらを向いては口を開く。
「どこか痛むとこはないか?」
「……ううん、大丈夫」
優しくされると目の奥がツーンと痛んで涙が出そうになるあたしは、まるでパブロフの犬みたい。
同時に、さっきの八つ当たりした自分がとてつもなく恥ずかしくなって、あたしは俯いたままボソッと呟いた。
「あの、あたしこそごめんね。勝手なこと言っちゃって」
「いーよ、別に。ホントのことだし」
あっけらかんとした口調に驚いて顔をあげれば、陽介は頭の後ろで手を組んでいるのが見えた。
そして相変わらずのバツの悪そうな苦笑いのまま、ペロッと舌を出す。
「お前の言う通りなんだよ。カノジョがいても散々女遊びしてた俺が、真面目な女と付き合ったってうまくいくわけねえんだよな。メグにとってはそういうとこも不満だったんだろ」
「陽介……」
「そこでさらに価値観まで違えば、理解もしづらいもんな。確かに別の世界の人間なのかも、俺とメグは」
「…………」
「……すげえ大事にしてたんだけどな」
寂しそうに笑う陽介に、罪悪感で胸がチクンと痛む。
これが仕掛けた罠の代償なのかな。
そっと陽介の手をとったあたしは、自分の頬にそれをそっとあてた。