ポニーテールを解いてくれ-7
同じホテルの同じ部屋である。そのルームナンバーは憶えていて、私がチェックをしたのである。少女との繋がりを意識して保ちたかった。
「同じ部屋ですね」
「憶えてた?」
「ええ」
振り返った少女がコートを脱いだ。制服が私の心を圧した。
(着てきたんだ!)
嫣然と微笑む少女は艶やかであり、その姿は清楚。制服を剝げば女体が蠢き、男を誘う秘唇が真っ赤な襞肉を震わせるのだろうか。いや、少女は美しい天使だ。神秘な女性美は永遠に心を浄化する存在……。想いが錯綜した。しかし、不思議なことに眺めているうちに化粧をした顔が制服に溶け込んでいるように見えてきた。
少女は椅子ではなくベッドに腰をかけ、あの時と同じように脚を広げた。膝を上げると白い下着が垣間見える。印象がまるで異なって見えるのは制服姿だということである。
(美しく……妖しい……)
異様な興奮が満ちてくる。
「君は毎日ちゃんと学校に行ってるよね」
「ええ、行ってます」
「名門女子高」
「名門かどうか……」
「充実した高校生活だろうね」
「充実……微妙ですね」
「不満がある?」
質問の意味がわからないのか、首をかしげた。
「家や学校に、不満はあるの?」
少女の口が少し歪み、溜息が洩れた。
「なんか、変な感じね。帰ろうかな」
「君は恵まれてると思うよ」
「お説教ですか?」
「ちがうよ。君みたいなきれいな子が、こんな……」
「こんな、何ですか?」
「いや、迷ってしまうんだ」
「何を迷うのかしら」
少女は少しずつスカートを引き上げていく。
「君が好きなんだ。こんな齢で恥ずかしいけど、好きなんだ……」
少女に微笑みが戻った。
何もかも放り出してこの子に溺れることができないのは自明の理である。だがいま、怪しげなホテルの一室で矛盾するように私の心はすべてを失ってもいいと思い始めていた。
(これは日常なのだ……)
風のように通り抜けてゆくありふれた日常の、ちょっと変わった出来事にすぎないのだ。
(少女の目はそう言っている……)
私にはそう思えた。そう思いたかった。
「電車で、楽しかったでしょ?」
(楽しかった?……)
怖かった……。しかし、言われてみると楽しかったようにも思えてくる。
「もっと大胆でもよかったのに」
スカートは完全に捲れ、膝はおろか太ももまで露になった。その肌は白い魔力となって私を惑わす。
床に膝をついた私はM字に開いた股間の正面に正座していた。
紺色のハイソックスの足首を取った。その足先を鼻に当てる。抵抗はないが少女は笑った。
「臭いですよ」
「いや、いいにおいだ」
彼女のにおいが凝縮されている。
ふくらはぎからソックスを丸めていく。滑らかな脚の肌が拡がっていく。
かかとを抜けるとすっと萎むように外れた。細い指が動く。鼻を押し付けた。
「ふふ、くすぐったい」
「きれいだ……」
この子の脚に触れている。においを嗅いでいる。頬を擦り寄せ、唇を這わせている。そして両脚を辿れば秘められた神秘の泉が光を待ち望んでいる。
私は少女の脚をさすりながら股間に顔を近づけていった。
「何ですか?」
私の行動に初めて身じろぎを見せた。私が何をしようとしているか察したのだろう。
「シャワー浴びますよ」
「いいんだ」
太ももを抱えて秘境を覆い隠す下着に顔を埋めた。
「あ、だめよ……」
強い拒絶はなく、私は淫臭の源に鼻を、口を押しつけて酔った。
「ああ……汚れてますぅ……」
若いにおいが私の体に充満していく。夢中で吸い込んだ。
「待ってください」
私の頭を押さえる手に力を感じて顔を上げた。
少女は居ずまいをただすと脚を横座りにした。やや息が乱れていた。
(やはりいざとなればためらいがあるのか……)
「きれいにしてからですよ……」
「そのままでいいんだ……そのままがいいんだ」
少女の口元の笑みが一瞬消え、制服の上着を脱ぎながら、今度は上目遣いで微笑を送ってきた。化粧の中で輝く瞳に魅入られて、私は心の在り方を見失っていた。
少女がブラウスのボタンを外し、リボンを取る。制服が消えていく。下着姿の少女は乳房を押し出すように胸を張った。
「あたし、バージンですよ……」
その言葉はもはや私にとって何の意味ももっていなかった。
私は掠れた声で懇願していた。
「ポニーテールを解いてくれないか……」
少女の手が胸元から髪の結い元に移っていく。間もなく長い黒髪がはらりと肩にかかる。私は固唾を飲んで見守りながら身を乗り出していた。