メイ-4
子猫の時から大切に育ててきたあたしの大事な家族。
気性が荒くて人見知りがすごくて、家族以外には懐かない、気難しい猫。
一向に懐かれなかった塁には散々“可愛くねー猫”ってバカにされ。
気まぐれで久留米さんだけには懐いていて。
あたしが久留米さんに振られてから、毎晩のように一人で泣いていれば、静かに部屋に入ってきて黙ってそばにいてくれた、不思議な猫。
今あの子がいなくなったら、あたしはとてもまともじゃいられない。
母からの電話を受けた時、急いで帰ろうとするあたしを、案の定塁は引き留めた。
「猫が家から逃げ出したことくらい、よくある話だろ?」
塁はそう言ってあたしを自分の車の中に引きずり込もうとした。
そんなのわかってる。
でも、このタイミングでメイが逃げ出すなんて、何か意味のあることのような気がしてならなかった。
現に、メイがいなくなったって知らなければまたあたしは同じ過ちを繰り返す所だったわけで。
“このまま流されないで”
メイがそうあたしに教えてくれた、今頃になってなんとなくそんな気がしてきた。
だから、今度こそあたしは渾身の力を振り絞って、塁の身体を突き飛ばすことができた。