メイ-2
“ただいま”も言わないまま、焦げ茶色した玄関の扉を乱暴に開け、パンプスも投げ捨てるように脱ぐ。
吹き抜けの玄関にあたしが現れると、愛猫がどこからか“ニャー”と鳴きながらトトトとお迎えしてくれる、これがいつものパターンだ。
……でも、メイは顔を出さなかった。
ギラギラ眩しい蛍光灯が差し込むリビングに足を踏み入れると、真っ青な顔でソファーに座り込む母の姿が目に飛び込む。
「お母さん、メイは!?」
あたしは持っていたバッグを放り投げて、彼女に詰め寄った。
メイは夕方、――ちょうどあたしと塁が会っていた頃、ゴミ出しをするために勝手口を開け放していた母の脇をすり抜けて、外に飛び出して行ったらしい。
母は、家から一歩も出たことのない、出ようともしなかったメイが脱走したことを、単なる気まぐれ程度に思っていた。
あたしの家は割りと高めの塀でぐるりと囲まれているし、何よりあれだけ警戒心の強い猫が自分の縄張りから出るような真似はしないだろうと、そう考えていたみたい。
ゴミを出してから、家の中に入れてあげればいい、そのつもりだったそうだ。
しかし、家に戻ってからメイの名前をいくら呼んでも姿が見えない。
家の中に戻った様子もない。
次第に焦り始めた母は近所を探し回るも、なしのつぶて。
これをあたしに知られたら大騒ぎになると思い、たった一人で今の今まで捜索していたらしい。
それでも、無情に過ぎていく時間にどうしたらいいかわからずに、とうとうあたしに電話をかけてきた、と言うわけだった。