メイ-11
その声に、今まで固く閉じていた目をうっすら開けた。
まだ顔を上げることができないあたしの視界に入って来たのは、年季の入った大きな白いスニーカー。
それは、あたしの1メートルほど先で歩みを止めると、踵を上げてグニャリと形を歪めた。
次第に視界に入ってくる、スウェットに身を包んだ足音の主の膝、太股、そして大きな手。
この足音の主が目の前でしゃがみ込んだとわかった時、あたしの涙腺は一気に崩壊した。
ずっと恋しかった声。
呼んで欲しかった名前。
あたしはゆっくり顔を上げ、街灯に照らされたシルエットを見てから、絞り出すような声で彼の名前を呼んだ。
「久留米さん……!」
メイがいないこんな時なのに、散々避けられていたのに、彼の姿を見た途端に張り詰めた糸が切れてしまったあたしは、形振り構わず彼の胸に飛び込んでいた。