(第二章)-6
わずかに硬直した肉幹の血流の筋が息づくように脈を打ち始め、亀頭の鈴口から洩れる性の密
やかな鼓動と淡い光が、私の欲情をゆっくりと誘い出そうとしていた。
思い描き続けていたタツヤの肉体への幻夢の切れ端が、藻のようにゆらゆらと私の中で蠢いて
いる。私の子宮の中で、欲情の風がそよぎ、卵巣が息苦し喘ぐ。止めることのできない欲情は
私の空洞を、砕かれたガラスの破片のように煌めかせ、欲情の冥府へ導いていくようだった。
私は彼の勃起し始めたペニスの幹の裏側から雁首の溝にかけて、舌先で微妙な刺激を与え、唇
で包み込んだ生白い肉珠の袋をたおやかに揉む。口の中で睾丸が滑るように戯れる。性器を擽
られる快感の酩酊がタツヤのからだの芯に微妙な刺激を生み出しているのか、蒼白いペニスは
さらに堅さを増し、私の鼻先で漲るように亀頭をもたげ始めていた。そのときふと目を見開い
たタツヤが、薄い笑みを浮かべながら小さく呟いた。
「あなたは、父を愛してなんかいない…」
「どうしてあなたにそんなことが言えるの…私は彼を愛しているわ…」
私は自分を見透かされたようなタツヤの言葉に苛立ちを感じた。
「あなたは愛していない父に抱かれながらも、ぼくの肉体にひれ伏そうとしている…」
そうタツヤが吐いたとき、私は彼の肉体に対して烈しい嫉妬を感じた。タツヤという男の肉体
と性に対しての息苦しい嫉妬…いや、それは私の中で浮遊する私自身の性が孕んだ孤独の呻き
だったのだ。
私はゆっくりと立ち上がり鞭を手にした。あの頃、私の前にひれ伏した男たちが欲しがった酷
薄すぎる快楽。それは同時に、私の性の中から瑞々しくゆさぶり起こされた快楽そのものだっ
た。久しぶりに鞭を手にした瞬間から、私の脳裏が真っ白に霞んでいく。
私は黒い一本鞭を大理石の床に叩き付ける。次の瞬間、私が振り上げた鞭が鋭く空気を引き裂
いた。
ヒュン…ビシッ…。
タツヤの背中に振り下ろされた鞭の音が、重厚な煉瓦の壁に反響する。
…あうっ… 彼の低い呻きが洩れる。
鈍い鞭の音が混ざる空気の澱みの中にひしめき合うものが、飛沫をあげて私の身体から遠のき、
一瞬にして消えていく。頭上に伸びた手首を鎖でくくられたタツヤのからだが、滑車の軋む音
とともに微かに揺れると、彼の肉肌に私の視線が粘りつくように強く吸い寄せられていく。
ヒュン… ビシシッー、ビシッ、ビシッー
…あぐっー、ぐぐっ…
嗚咽を噛みしめるタツヤのからだは、鞭で苛まれれば苛まれるほど、秘めた肉と性の輝きが滲
み出るような気がした。振り下ろす鞭に感じるタツヤの肉肌の感触が、私の膣穴を痺れるよう
な波動となって駆け抜け、欲情が血流の中をゆっくりと逆流しながら揺らめく。