ジークの一番災難な日-4
東端魔法《イースタン・マジック》は、難しい東の漢字が必須で、材料も特殊なものが多く、大陸西側の魔法使いは殆ど使えない。
そもそも、似たような効果のある魔法が西の魔法にもあるから、わざわざ両方を習得する必要もないのだ。
だが、本職の魔法使いとは無縁なヤツやガキからすれば、かえって珍しいと魅力的に見えるらしい。
漢字プリントのシャツとか、流行ってるしな。
とにかく、子どもの玩具程度に薄められた東端魔法のグッズは、かなり売れる。
だが、正規の玩具メーカーが出してるものと違って、この手の通販は半分以上がインチキで、大した効果もない。
魔法も使えない俺が詳しいのは、荒んだガキ時代に、自分の食い扶持を稼ぐべく、(裏の)社会勉強ばっかりしていたせいだ。
教科書を読む代わりに、裏商売の仕組みは一通り学習したんだよ。
「お前、こんなの買ったのか」
俺が説教ってのもなんだが、自然と眉間に皺が寄る。
表向きのカモフラージュ商売といえ、こいつら実体はマフィアなんだぞ! ガキは知らないで気軽に買い物してるけどな!
マルセラが気まずそうに首を振った。
「誰かが知らないうちに、私のロッカーに入れたの。……でも、使ったのは私だから」
「そうだな、同じことだ」
俺だって嫌な気分だったが、冷たく言った。
入手経緯がどうであれ、使ったのはマルセラだ。
「どうして使ったんだ?」
返答しだいじゃ、いくらマルセラでもきっちり叱る。そう決意して、俺はキッと睨んだ。
いや、マルセラだからこそ、この行動はヤバイんだ。
インチキ魔道具でも、高い魔力をもったヤツが使えば、それなりの効果が出ることもある。しかも魔法の内容をちゃんと理解せずに使えば、メチャクチャな結果になる。
だから、魔法学校で優秀な成績を納めてるマルセラみたいなガキは、絶対に手を出しちゃいけないし、それくらい知ってるはずだ。
絶対に叱る! きっちり反省しやがるまで叱る!!
グルグルと唸る俺の前で、うな垂れたマルセラが白状した。
「劇の主役がちゃんと出来るか、不安だったの。そうしたら先週、これで勇気をわけて貰えって書いた手紙と一緒に、この箱が入ってて……」
「ふーん、そうか」
贈り主が本当に好意だったのか、疑わしいところだ。マルセラの不安に付け込んで、悪戯をしかけた可能性だってある。
……だが、叱るからな!
「私の知ってる人で、一番強いのはジークお兄ちゃんだから……」
あー、なるほど。よくわかった。なら仕方ねぇ。説教は中止だ。
マルセラは心から反省したようで、ヒックヒックと肩を震わせている。
……もちろん、俺の身体で!
「わかった! わかったから、俺の身体で泣くな!」
自分ものだった固い金髪頭を、よしよしと撫でて宥めるというのは、奇妙な気分だ。
「とにかく……アイツに相談してみるか」
これは非常事態にも程がある。
劇は十一時から始まるし、それまでに……いや、大至急なんとかしなくては。
情けないツラで泣きじゃくる俺の姿は、悲惨すぎる!
ものすごく気が進まないが、テーブルから携帯を取り、とある大企業の『非常事態収集員』に電話をかけた。