ジークの一番災難な日-13
***
―― そして八年が経った。
あれ以来、俺は魔法学校には近寄っていない。学園祭も、断固として拒否している。
だが、マルセラからいつも学校生活の話を聞くし、ウリセスからも色々と情報を仕入れた。
たとえば、前から何かと問題視されていたクラリッサの父親は、学園祭を含めて、学校敷地内へ永久出入り禁止とされたとか。
あの学校で、東魔法の問題を最も起こしやすいのは小等部の生徒たちで、ホワンはそのために小等部の専門教師を長年やっているとか……。
クラリッサは深く反省し、今はマルセラと学部が違うが、仲良くやっているらしい。
俺が風呂から出ると、パジャマ姿のマルセラが、リビングの床に座り込んで何か眺めていた。
相変わらず小柄だが、もう十七歳になったから、子どもとは呼べない。俺を『お兄ちゃん』と呼ぶのも止めさせた。
……なにしろ、嫁にしちまったんだからよ。
「なにやってんだ?」
ひょいと後ろから覗き込んだ瞬間、俺は硬直した。
「っ!! お、おい……っ! それ、どこにあった!?」
魔法学校の紋章が印刷された小さな紙袋は、マルセラと住むことになった引越しで、行方不明になっていたものだ。
「さっき、私のクローゼットの奥で見つけたんだけど、やっぱりジークの? 魔法学校の袋だから、引越しの時に間違えて、私の荷物に入っちゃったみたい」
なんだと!? 引越し業者め!!
中身がアレだけに、マルセラに聞くこともできず、散々探していたのに!!
「これ、あの時のだよね。懐かしいなぁ」
マルセラが袋から、八年前の学園祭を写したDVDを取り出し、懐かしそうに眺める。そしてふと、小首をかしげた。
「……でも、なんで同じのが三枚もあるの?」
「〜〜っ!!」
あまりの羞恥に声も出ず、俺は袋ごと奪い取って後ろに隠し、顔をそらした。
誰かと暮らすというのは、いいことばかりじゃない。
たまにこうやって、見られたくない持ち物がバレちまう時もある。
「べ、別に、いいだろうが……っ! 俺が何をいくつ買っても!」
「うん、別にいいけど……ちょっと照れちゃった」
マルセラが頬をほんのりと染めて、照れ笑いをする。あんまりにもそれが可愛らしくて、思わずソファーに押し倒して唇を塞いだ。
「んん……っ!?」
俺の下で、マルセラが身を捩ろうともがく。
「嫌か?」
耳たぶを甘噛みして聞くと、顔を真っ赤にして口篭った。
「そうじゃない……けど、ここじゃ……」
「なんだよ、はっきり言え」
「……だって……明るいし……恥ずかしい……」
視線を逸らして消え入りそうな声で囁かれ、顔が勝手にニヤける。
「悪いな。余計にここでしたくなった」
「えええ!? なんで……っ!」
ジタバタと逃げようとするのを、許すはずなんかない。片手でマルセラの両手を押さえ、もう片手でボタンを外していく。
「あ、ああっ、や……」
しだいに甘い艶を帯びていく抗議の声に、喉を鳴らして笑った。
「マルセラ……」
そっと呼べば、白い肌が鎖骨辺りまで赤みを帯び、甘い発情の香りが、いつもよりも早く濃く香る。
薄暗くても明るくても、俺はよく見えるから変わらないんだが、マルセラの気分は大違いらしい。
羞恥に悶える姿も、どうしてお前なら、こんなに可愛いんだろうな。
――せいぜい俺と同じくらい、恥ずかしい思いをしてもらおうか。
終